パイがふたつあったおはなし

『パイがふたつあったおはなし』（The Tale of the Pie and the Patty-Pan）は、イギリスの絵本作家ビアトリクス・ポターが1905年に発表した、世界中で愛されるピーターラビットシリーズの一冊です。猫のリビーと犬のダッチェスという二匹のキャラクターを中心に、ティーパーティーで起こるパイを巡る騒動が描かれています。

物語は、おしゃれで上品な猫のリビーが、親しい友人である犬のダッチェスを自宅でのティーパーティーに招待する手紙を送ることから始まります。手紙には、パーティーの目玉として手作りの美味しいパイを振る舞うつもりであると記されていました。ちょうどその頃、ダッチェスもリビーを夕食に招こうかと考えていたため、リビーからの招待を二つ返事で受け入れ、快諾の手紙を送ります。

しかし、ダッチェスには一つ気がかりなことがありました。それは、リビーが自分の食べられないねずみのパイを出すのではないかという懸念です。ダッチェスはねずみパイが苦手だったのです。そこでダッチェスは、ある計画を思いつきます。それは、自分が特別に用意した、ブリキの焼き型が入った子牛とハムのパイを、リビーのパイとこっそりすり替えてしまおうというものでした。自分のパイなら安心して食べられると考えたのです。

一方、リビーはダッチェスからの返事を受け取ると、早速パーティーで出すねずみとベーコンのパイ作りに取りかかりました。リビーが使っているオーブンは上下二段式になっており、ねずみパイは火力が強すぎない下の段でじっくり焼くことにしました。下の段のオーブンは扉を開けるのに少し力が必要でした。パイをオーブンに入れたリビーは、パーティーの準備を続け、足りない食材を買いに、いとこのタビタが経営するお店へ出かけます。その道の途中、思いがけずダッチェスとばったり会釈を交わしました。

二人はそこで別れますが、リビーの姿が見えなくなるやいなや、ダッチェスは計画を実行するためにリビーの家へ急いで向かいます。買い物を終えて帰宅したリビーは、裏口の方から何か物音がするのに気づき、不審に思いながら家の中を見て回ります。すると、戸棚の中身や物の位置など、出かける前とはいろいろな箇所が変わっていることに気づき、首を傾げます。

その頃、すり替えを終えたダッチェスは、自分のパイをリビーのオーブンの上の段に入れ、自宅に戻ってティーパーティーのための身支度を整えていました。ねずみのパイがどうなったか少し気になりつつも、再びリビーの家へ向かいました。

いよいよティーパーティーが始まり、楽しみにしていたパイがテーブルに運ばれてきました。ダッチェスは出されたパイを待ちきれずあっという間に平らげると、皿の中に何か硬いものを探し始めます。それは、彼女が自分のパイに入れたブリキの焼き型でした。しかし、自分のパイとすり替えられたことを知らないリビーは、機嫌を損ねてしまいます。「パイの中に焼き型なんて入っているわけないでしょう」と言うリビーに対し、ダッチェスは自分が誤って焼き型を飲み込んでしまったと思い込み、急に気分が悪くなってしまいます。顔色が悪くなったダッチェスは、リビーに医者のカササギ先生をすぐに呼びに行ってくれるよう頼みます。

リビーがカササギ先生を呼びに出かけている間、一人になったダッチェスは、オーブンの方から漂ってくる美味しそうな匂いに気づきます。オーブンの中を覗いてみると、そこには自分の作った子牛とハムのパイが、ちょうど良い具合にこんがりと焼けているではありませんか。この光景を見て、ダッチェスは自分が焼き型ではなく、リビーの作ったねずみパイを食べたために気分が悪くなったのだと悟ります。しかし、この事実を今さらリビーに話すのはあまりにも格好が悪く、恥ずかしいことでした。そこでダッチェスは、焼けたばかりのパイをそっと裏庭に出しておき、パーティーが終わった後でこっそり回収しようと考えます。

まもなく、カササギ先生が到着します。先生はダッチェスの話をよく聞くと、パンを丸めただけの丸薬を処方しました。ダッチェスはその薬を飲み、丁寧にお礼を言ってリビーの家を後にしました。

少し時間を置いてから、ダッチェスは裏庭に置いたパイを取りに戻ります。ところが、裏庭をそっと覗き込んでみると、そこにはなんとカササギ先生と、先生と一緒にやってきたらしい子ガラスたちが、ダッチェスが置いておいたパイを美味しそうについばんでいる姿がありました。その光景を見たダッチェスは、恥ずかしさで顔が赤くなり、何も取らずにすごすごと自宅へ帰ったのでした。

一方、ダッチェスのすり替えやその後の出来事を何も知らないリビーが、後になって裏庭へ水汲みに出てみると、地面には割れたパイ皿と、見覚えのあるブリキの焼き型が無造作に転がっていました。この予期せぬ発見に、リビーは驚き、そして何があったのかを察して呆れ返ってしまいます。そして、今後のティーパーティーには、このような騒動を起こすことのない、信頼できるいとこのタビタを招待することに決めたのでした。

関連項目

ビアトリクス・ポターの作品
ひげのサムエルのおはなし

外部リンク

* 『パイとやきがたのはなし』：新字新仮名 - 青空文庫（大久保ゆう訳）

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