パイル (紋章学)

紋章学におけるパイル（Pile）

パイルとは、紋章学においてエスカッシャンのチーフ（頂部）からベース（底部）にかけて伸びる逆三角形のチャージ（図形）のことです。オーディナリー（基本的な紋章要素）に分類されます。

解説

パイルの形状は、建築物の基礎に打ち込む楔状の杭に由来すると言われています。三角形の底辺の幅はフィールド（紋章の背景）の約3分の1とされることが多いですが、他のチャージとの兼ね合いで3分の2になったり、3分の1を超える場合もあります。重要な点として、三角形の底辺にある2つの頂点はフィールドの隅には達しないこと、そしてベースに伸びた三角形の頂点が必ずしもフィールドの底辺にまで達する必要はないことが挙げられます。

方向の異なるパイル

通常のパイルはチーフ側から伸びるものを指しますが、ベース側から伸びる上下反対のものは「pile reversed」や「pile transposed」と記述されます。また、デキスター（向かって左）側やシニスター（向かって右）側を底辺として反対側に伸びるパイルもあり、「パイル・フロム・デキスター (pile from dexter)」などと記述されます。その他、四隅からパイルが伸びるようにしたり、斜めに傾けて頂点がフィールドの四隅に向かうようにしたりするバリエーションも存在します。

フランス語では、ベースに伸びる三角形を「la pile」と呼びますが、チーフに伸びる英語の「pile reversed」に相当するものは「la pointe」と記述され、異なる名称が用いられます。また、両者の三角形の高さはフィールドの3分の2程度と考えられていた時期もありました。

パイルに関する用語

パイル・ウェイヴィー (Pile wavy)

パイルの輪郭線を波状にしたもので、水（あるいは何らかの液体）の流れを表現するために用いられます。イギリスの牛乳取引所の紋章には、牛乳の流れを表現する3本のパイル・ウェイヴィーが描かれています。パイルは杭という物体を基にしたチャージですが、形のないものを表現するためにも使われることがあります。

フラム (Flamme)

パイル・リバーストの輪郭線を波状にしたもので、炎を表現しています。パイル・ウェイヴィーと同様に、本来決まった形のないものを表現したものです。

エマーンシュ (Emanche)

デキスターから伸びるパイルがいくつか連なった鋸状の図形です。パイルの高さはパイル・フロム・デキスターよりも低く見えます。

パーティ・パー・パイル (Party per pile)

パイルの形状にフィールドを3分割したものです。ショーセという非常によく似た分割図形があり、古典的なイングランドの紋章学では、パー・パイルという分割図形そのものが認められていないことがあります。上下逆のものは「パーティ・パー・パイル・リバースト (Party per pile reversed)」、左に90度回転させたように見えるものは「パーティ・パー・パイル・トレバース (Party per pile traverse)」と呼ばれます。

パイリー (Pily)

複数のパイルの形に分割したフィールドを指します。パイルの頂点をどこに集中させるかによって記述方法が異なり、パイリーだけではどのように作図すればよいか決められないという特徴があります。同様の形状のパイルが並列に並び、その模様が垂直に向いている場合は「パイリー・ペイリー (Pily-paly)」又は「ペイリー・パイリー」と呼び、ミドル・シニスターに集中させる場合は「パイリー・トレバース・イン・ポイント・トゥ・シニスター・フェス (Pily traverse in point to sinister fesse)」などと具体的に記述する必要があります。

近似図形

フランス語では、底辺がフィールドの幅いっぱいに広がる三角形がチーフに達している図を「シャーペ (chapé)」と呼び、その上下逆の図を「ショーセ (chaussé)」と呼びます。同様に、フィールドの左右から伸びる大きな三角形によるものを「アンブラッセ (embrassé)」と呼びます。更に、ベースからチーフに伸びるパイルで、フィールドの4分の1ほどしか高さのないものを「matelé」と呼びます。これらの図形は、フィールドの分割として捉えられることが多いようですが、他の分割と異なり、分割に用いるティンクチャーを2色並べて記述せず、「De gueules chapé d'argent」などのように、あたかもチャージのようにシャーペの名前の後にティンクチャーを書くこともあります。

これらの図形はフランスをはじめとする大陸ヨーロッパの紋章に見られ、イングランドではごく稀にしか見られません。英語で記述したいとき、これらの語をそのまま借用するか、パー・パイルに置き換えています。これはシャーペをパー・パイルと同一視することがあることを示唆しますが、シャーペは三角形の両脇の図形を指す言葉であり、パー・パイルは中央の楔を基準にしているため、厳密には異なるものです。紋章の記述は、記述者の立場によって解釈が左右されることがあります。

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