パオロ・マッキャリーニ

パオロ・マッキャリーニとは

パオロ・マッキャリーニ（Paolo Macchiarini、1958年 8月22日 - ）は、スイス・バーゼル出身のイタリア人胸部外科医であり、かつては再生医療研究者として活動していました。しかし、その研究活動における不正行為が発覚し、悪評が広まりました。

マッキャリーニは、患者自身の骨髄から採取した幹細胞を培養し、それをプラスチック製の人工気管に付着させて患者に移植するという革新的な手法を開発しました。この手法は「医学界に革命をもたらす」と高く評価され、彼は一躍スター医師としての地位を確立しました。しかし、実際には、この手術を受けた患者の多くが術後に死亡していることが明らかになり、彼の経歴詐称などの不正行為も明るみに出ました。

経歴

1986年、マッキャリーニはピサ大学の医学部を卒業し、1991年には同大学で外科修士号を取得しました。その後、臨床研究の統計学を学び、臓器・組織移植の修士号と博士号を取得し、再生医療の分野に進みました。2008年には、バルセロナ大学で、遺体から採取した気管に患者自身の骨髄細胞を付着させて移植するという手術を行い、注目を集めました。2011年には、世界的に権威のあるスウェーデンのカロリンスカ研究所で、再生医療や幹細胞生物学の基礎研究を行う客員教授として勤務しました。

しかし、患者の死亡をきっかけに、2012年にカロリンスカ研究所との契約を終了し、その後はロシアで同様の研究を続けました。2014年には、研究不正の疑惑が浮上し、2015年にはカロリンスカ研究所の外部研究者からマッキャリーニの研究不正行為について告発がありました。研究所は当初、彼を臨時研究員として再雇用しましたが、2016年にヴァニティ・フェア誌やドキュメンタリー番組で告発が相次いだことにより、調査が開始され、不正が認められました。その結果、同年末にカロリンスカ研究所を退所することとなりました。2019年には、文書偽造と職権乱用の罪でイタリアの裁判所から懲役16か月の刑を言い渡され、2020年にはスウェーデンでも裁判が行われています。

研究不正

マッキャリーニは以前、患者自身の幹細胞を付着させた生体由来または樹脂製の足場材を用いた気管移植法を行い、再生医療分野のパイオニアとして知られていました。2010年からは、カロリンスカ研究所の非常勤客員研究員を務めていました。

しかし、研究不正と比較的健康な患者に対する非人道的な実験的外科手術を行ったとして訴追されています。樹脂製の人工気管支を用いた手術を受けた患者9名のうち8名が死亡しており、生存が確認されているのは、手術から半年後に人工気管を取り除いた1名のみです。

ヴァニティ・フェア誌の記事によれば、彼の経歴書に記載された学歴資格の一部が詐称であったとされています。スウェーデンの新聞Aftonbladetも同様の告発を行っており、マッキャリーニが主張していたハノーバー大学とバルセロナ大学の教授であったという事実は虚偽であったと報じています。

ノーベル生理学・医学賞選考委員会委員長のウルバン・レンダールは、2010年のマッキャリーニのカロリンスカ研究所への採用に関わった責任を取り、2016年2月に辞任しました。その後まもなく、2015年にマッキャリーニの科学不正がなかったと宣言した副所長のアンデシュ・ハムステンも辞任しました。

2016年3月23日、カロリンスカ研究所の職員懲戒委員会は、研究所とマッキャリーニとの雇用関係は事実上終了していると発表しました。カロリンスカ研究所におけるマッキャリーニの雇用は、研究所が契約更新を行わないことを決定したため、2016年11月に終了しました。カロリンスカ研究所解雇後、マッキャリーニはロシアのカザン連邦大学で研究を行っています。

2016年6月以降、マッキャリーニはスウェーデン検察による司法調査の対象となっています。容疑は、科学審問では不問となったスウェーデンにおける3名の患者の死亡について、彼らの死を招いた素材使用による故殺及び重大な身体的加害です。起訴の是非については、スウェーデン国立保健福祉委員会による法医学的評価を待って、2017年に決定される予定です。

ドキュメンタリー

マッキャリーニの研究不正疑惑を追ったドキュメンタリーも制作されています。

2016年には、スウェーデンのSVTによって「The Experiments（人体実験）」が制作され、2017年には日本でも『カリスマ医師の隠された真実』という邦題でNHK BSで放映されました。この作品は、同局のプロデューサーであるBosse Lindquistがマッキャリーニに密着し、一連の疑惑に迫ったものです。

2018年2月には、マッキャリーニの元婚約者でNBCニュースのプロデューサーであるベニータ・アレクサンダーによるドキュメンタリー「He Lied About Everything（すべて嘘だった）」がアメリカで放映されました。アレクサンダーは、話題の医師としてマッキャリーニを取材したのをきっかけに2013年から交際を始め、2015年に結婚を予定していました。しかし、結婚式の来賓であるとマッキャリーニから聞かされていたフランシスコ (ローマ教皇)がその日外遊の予定であることを友人から聞いてマッキャリーニに問いただしたところ、自分は元スナイパーだ、CIAの仕事をしていた、先代教皇のベネディクト16世が結婚の邪魔をしているなどと答えたことから不信感を抱き、独自に調査を開始しました。その結果、マッキャリーニが既婚者であり、複数の愛人がいることなど、多くの嘘を突き止め、その過程をドキュメンタリーに収めました。この作品には、交際中にマッキャリーニ自身が撮影した贅沢な暮らしぶりも収録されています。

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