パスカリス (対立教皇)

ローマ教皇位継承争いと対立教皇パスカリス

7世紀のローマ教皇位継承は、常に複雑な権力闘争の舞台でした。687年、教皇コノンの死去は、新たな争乱の火蓋を切ることになります。この混乱の中で、注目すべき人物が一人います。パスカリスです。彼の生没年は不明ですが、ローマ助祭を務めていた彼は、教皇位継承を巡る争いに深く関与し、その生涯は謎とドラマに満ち溢れています。

コノン教皇の死後、教皇位を巡って複数の候補者が名乗りを上げました。その中には、テオドルスという人物がいました。パスカリスは、このテオドルスに対抗する形で対立教皇を宣言します。しかし、事態はさらに複雑さを増します。一部の史料は、パスカリス自身が、テオドルスと対立していた別の対立教皇をさらに対立させるという、三つ巴の争いを生み出した可能性を示唆しています。いずれにせよ、パスカリスの行動は、ローマに大きな混乱をもたらしました。

教皇位継承をめぐる争いは、ローマ市民の強い不安を招きました。市民たちは、この混乱を収拾するために、セルギウス1世を新たな教皇として擁立しました。687年12月15日、セルギウス1世は教皇として承認されます。そして、セルギウス1世はテオドルスとパスカリスに対し、教皇位からの退位を要求しました。テオドルスは、この要求を受け入れました。しかし、パスカリスは抵抗を続け、教皇の座にしがみつき続けました。

パスカリスの頑な姿勢は、ローマ市民の怒りを買いました。最終的に、パスカリスは市民によって逮捕され、投獄されたと伝えられています。彼のその後については、明確な史料がなく、謎に包まれています。逮捕後、処刑されたか、あるいは投獄されたまま生涯を終えたのか、定かではありません。

パスカリスの生涯は、権力闘争の残酷さと、歴史の闇に埋もれた数多くの無名の闘争を垣間見せてくれます。彼の物語は、7世紀ローマにおける宗教的・政治的混乱の深刻さを改めて認識させる、貴重な歴史の一断面なのです。わずか数行の記述しか残っていないパスカリスですが、その短い生涯は、権力の奔流に翻弄された人間の悲劇を物語っています。限られた史料から、私たちは彼の人生を推測し、当時のローマ社会の複雑さと激動を想像するしかありません。今後の研究によって、彼に関する新たな知見が得られることを期待したいところです。

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