パナール・ディナZ

パナール・ディナZ/PL17：フランス合理主義の結晶と、その短い生涯

パナール・ディナZは、フランスの自動車メーカー、パナールが1954年から1960年まで製造した小型大衆車です。その後、パナール・PL17と改名され、1965年まで生産されました。1946年から生産されていたディナXの後継モデルとして登場したディナZは、全長4,570mm、全幅1,600mmという、当時としては2,000ccクラスに匹敵する大型ボディが特徴でした。

しかし、その大きな車体を動かすエンジンは、初代ディナXと同様の空冷水平対向2気筒850cc。この一見すると非力なエンジンで、最高速度130km/hという性能を実現できたのは、徹底的な軽量化と空力設計の賜物でした。ボディ装飾用のモールに至るまで、全てアルミニウム製とすることで、車両重量はわずか650kgに抑えられています。この軽量設計と空力性能の高さは、フランスの合理主義を体現した、エキセントリックなモデルと言えるでしょう。

しかし、ディナZには大きな課題がありました。それは製造コストの高さです。ルノーやシトロエンといった大規模メーカーに比べ、パナールの生産規模ははるかに小さく、ディナZの製造には非常に高いコストがかかっていました。そのため、1955年にはシトロエン傘下に入り、コスト削減のため、徐々にスチール製パーツの比率を高めていくことになります。

そして1960年、ディナZはオールスチールボディとなり、パナール・PL17へとモデルチェンジしました。同時に、虎柄の内装を持つ高出力版「ティグル」（Tigerの意）も追加されました。これは、スチール化による重量増加によって低下した性能を補うための措置でした。ティグルは、その個性的なデザインと高性能で、一部のマニアを魅了したと言われています。

しかし、PL17の販売状況は依然として厳しいものでした。そして、1965年、パナールの乗用車部門はシトロエンに吸収合併され、PL17は生産終了となりました。PL17は、日本でもシトロエンの代理店であった日仏自動車によって少量輸入されましたが、その存在は、フランス車の中でもニッチな存在として知られています。

パナール・ディナZ/PL17は、その短い生涯の中で、フランスの自動車技術の粋を集めた革新的なモデルでした。軽量化と空力設計を徹底的に追求したその思想は、現代においても高く評価されています。しかし、その高い製造コストと、大規模メーカーとの競争激化という現実の前に、短い歴史に幕を閉じました。それでも、そのユニークなデザインと高い性能は、多くの自動車愛好家の記憶に刻まれています。

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