パラレル・マザーズ

パラレル・マザーズ：複雑に絡み合う母性と歴史の影

ペドロ・アルモドバル監督、ペネロペ・クルス主演による2021年のスペイン映画『パラレル・マザーズ』は、新生児の取り違えという衝撃的な事件を軸に、スペイン内戦の暗い歴史と母性の複雑さを鮮やかに描き出した作品です。ヴェネツィア国際映画祭で9分間のスタンディングオベーションと女優賞を受賞するなど、高い評価を獲得しています。

物語の中心人物は、写真家のジャニス。彼女はスペイン内戦で虐殺され、集団墓地に埋葬された曾祖父と村人たちの遺骨発掘を、人類学者アルトゥロに依頼します。その過程で二人は親密になり、ジャニスはアルトゥロの子を身ごもりますが、アルトゥロには妻がいたため、シングルマザーとして出産を決意します。

病院では、10代のシングルマザーであるアナと出会い、同じ日に出産します。ジャニスは我が子をセシリアと名付けますが、アルトゥロは赤ん坊が自分の子に似ていないと疑念を抱きます。DNA鑑定の結果、セシリアはジャニスの子供ではないことが判明するも、彼女は真実を隠したまま子育てを続けます。

数ヶ月後、ジャニスはカフェでアナと再会。アナは、女優の仕事に没頭する母親に失望し、実家を出て生活していることを打ち明けます。そして、アナが突然我が子を亡くしたという衝撃的な事実をジャニスに告げます。その時、ジャニスは病院で子供たちが取り違えられたことを確信します。

ジャニスはアナを自宅に招き入れ、家事や育児を手伝わせながら、こっそりと親子鑑定のためのサンプルを採取します。鑑定の結果、セシリアがアナの娘であることが判明します。アナは、同級生によるレイプで妊娠し、口外しないよう脅されていた過去を明かします。二人は肉体関係を持つものの、ジャニスは距離を置きます。

一方、アルトゥロはジャニスを訪れ、遺骨発掘事業の承認と妻との別居を報告します。二人が祝杯を上げる中、アナは嫉妬に駆られます。アナの母親であるテレサも登場し、娘への愛情と女優としての夢の間で葛藤する姿が描かれます。

ジャニスはついにアナに真実を告げますが、アナは怒り、セシリアを連れて家を出ていきます。悲しみに暮れるジャニスはアルトゥロを頼り、一夜を共にします。翌日、冷静さを取り戻したアナはジャニスに電話し、セシリアと共に新しい生活を始めようと提案します。

数ヶ月後、ジャニスとアルトゥロは村を訪れ、遺骨発掘の準備を進めます。発掘現場でアナと再会したジャニスは、自分が妊娠3ヶ月であることを告げます。そして、生まれた子の名前を、女の子ならアナ、男の子なら曾祖父の名前であるアントニオにしようと決めます。

無事に遺骨が見つかり、村人らと共に亡くなった人々を悼む儀式が行われます。映画は、母性、歴史、そして新たな生命の芽生えが複雑に絡み合い、静かに幕を閉じます。スペイン内戦という重く暗い歴史的背景と、現代の女性たちの葛藤が絶妙に融合し、観る者に深い感動と余韻を残す、見応えのある作品です。

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