パリスの審判 (ルノワール)

『パリスの審判』の詳細

概要

『パリスの審判』は、フランス印象派の巨匠、ピエール＝オーギュスト・ルノワールが1913年から1914年の間に完成させた油彩画です。この作品の主題はギリシア神話に基づいており、トロイア戦争の引き金となる重要なエピソードに触発されています。ルノワールはリウマチに悩まされていた晩年にこの作品を創作したため、彼の作風の中でも特に意義深い作品の一つとされています。現在、この作品は広島市にあるひろしま美術館に所蔵されています。

主題

この絵画は、神々の間での美の競争がテーマとなっています。王ペレウスと女神テティスの結婚式に全ての神々が招待される中、ただ一人エリスだけが招かれなかったことが原因で不和が生じます。怒ったエリスは、「最も美しい者へ」というメッセージを刻んだ黄金の林檎を祝宴に投げ入れ、ヘラ、アテナ、アプロディテの三人の神々がその林檎の所有権を巡って争います。ゼウスはトロイアの王子パリスにこの争いの判定を託けます。女神たちはそれぞれの魅力を持ってパリスにアプローチし、最終的にアプロディテが最も美しい妻として彼に選ばれることで、トロイア戦争の導火線が引かれることとなります。

作品の構図

絵画の中では、三人の女神が田園風景の中で衣服を脱ぎ捨て、トロイアの王子パリスに対して豊満な裸体を示しています。パリスは三人の女神の前にひざまずき、中央に立つアプロディテに黄金の林檎を差し出そうとしています。アプロディテは自信に満ちた表情で林檎を受け取ろうとしており、彼女だけが衣服を脱いでいます。一方、他の二人の女神については明確な特徴が描かれていないため、どちらがアテナかヘラかを判断することはできません。背景には小さな神殿が描かれており、神々の神秘的な雰囲気が引き立ちます。

ルノワールの技法と背景

ルノワールは、1908年にも同様のテーマで絵を描いています。その作品との違いとしては、ヘルメスが加わっている点や、登場人物のポーズに微妙な変更が見られます。このように、ルノワールは過去の作品をもとに新たな視点や要素を取り入れてきました。右端の女神は、彼の若き頃の師であるシャルル・グレールの作品に由来しており、古典主義的な影響が色濃く現れています。右端の女神のモデルとされるのは、妻の遠縁にあたる女性で、家政婦としても活動していたガブリエル・ルナールです。

その後の影響

『パリスの審判』は単なる絵画にとどまらず、ルノワールが線を超えて彫刻の制作にも着手するきっかけとなりました。リューマチによって制作が制限される中、彼は彫刻家リシャール・ギノと共同で作品を生み出し、この絵画を元にしたレリーフと、アプロディテだけを取り上げた彫刻『勝利のヴィーナス』が制作されました。これらの作品は多くのブロンズ版が作られ、世界中の美術館に収蔵されています。

結論

ルノワールの『パリスの審判』は、美と愛をテーマに、古代神話を現代的に解釈した傑作です。彼の独自の表現技法が生かされた作品は、観る者に強い印象を与えると同時に、ルノワールの創作の過程や思想をも映し出しています。

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