パン-パン

パン-パン（Pan-pan）とは

「パン-パン（pan-pan）」とは、船舶や航空機が無線通信で使用する用語で、緊急事態の前段階である準緊急事態を意味します。遭難信号である「メーデー」を送信する状況には至っていないものの、何らかの異常が発生し、注意や支援が必要な状況であることを周囲に知らせるために使用されます。

概要

パン-パンは、通常3回繰り返して「パン-パン、パン-パン、パン-パン」と発信されます。これにより、周囲は発信者が緊急事態に陥る可能性があることを認識します。メーデーが乗員の生命や船舶・航空機自体が直接的な危険に晒されている状況を意味するのに対し、パン-パンは、まだその段階には至っていないものの、状況が悪化する可能性があることを示唆します。

パン-パンを受信した場合、周囲は発信者に対して注意を払い、必要に応じて支援を準備しますが、メーデーを受信した場合のように、全ての活動を中断して直ちに救援活動を開始する必要はありません。

由来

パン-パンの語源は、フランス語の「panne（故障）」に由来するとされています。また、後付けとして「possible assistance needed（可能な限りの援助を求む）」や「pay attention now（今後の進展に注意せよ）」の略であるとされることもありますが、これはバクロニム（頭字語の語呂合わせ）です。しかし、これらのバクロニムは、元の「panne」よりも意味が理解しやすく、メーデーとの違いを明確にするのに役立つため、船舶・航空無線の実習では一緒に覚えさせることが多いようです。

使い方

パン-パンは、以下の手順で使用されます。

1. 「パン-パン、パン-パン、パン-パン」と3回繰り返して発信する。
2. 送信先の名称を呼びかける（例：「周辺の全ての交信局、周辺の全ての交信局、周辺の全ての交信局」や「ヴァンクーバー沿岸警備隊、ヴァンクーバー沿岸警備隊、ヴァンクーバー沿岸警備隊」など）。
3. 発信者の便名、位置、被害状況などを伝える。
4. 必要に応じて、救急要員の規模を伝えたり、操縦方法についての助言を求めたりする。

モールス信号では、Xを3回繰り返して「X X X」と送信すると、パン-パンと同じ意味になります。

また、メーデーの中継にもパン-パンを使用することがあります。例えば、メーデーを発信した船舶や航空機が目的の交信局から遠く離れている場合、付近を航行する船舶や航空機にメーデーの中継を依頼することがあります。この場合、中継を依頼された側は、自機はメーデーを発信しているわけではないが、メーデーを中継していることを示すために、最初にパン-パンを発信します。これは、VHF帯を使った無線通信でよく用いられる方法です。

具体例

船舶の例

船舶の例は、情報が不足しているため、割愛させていただきます。

航空機の例

以下は、パン-パンが実際に使用された航空機の事例です。

スイス航空111便：機内で火災が発生したため、緊急着陸を要請する際にパン-パンを発信しました。
アビアンカ航空52便：事故の初期段階で、燃料が不足してきていたものの、緊急事態には至っていない状況でパン-パンが発せられました。
カンタス航空74便：サンフランシスコを離陸直後、第4エンジンが不調になった際にパン-パンが発信されました。
カンタス航空72便：飛行中に機体が数百フィートほど落下した際にパン-パンが発せられました。この事故では、乗員・乗客の中に負傷者も出ました。
カンタス航空32便：シンガポール発シドニー行きの便で、離陸直後に4つあるエンジンのうち1つが停止した際にパン-パンが発信されました。
アブロ バルカンXH558便：航空ショーへ向かうため離陸した直後に油圧系統の不調を訴え、パン-パンを発信しました。最終的に、同機は長い滑走路を持つ空軍基地に着陸し、ブレーキ用パラシュートを使って停止することができました。

急患発生時

特殊なケースとして、機内に急病人がいる場合にもパン-パンを送信できます。この場合、通常の手順でパン-パンを発信した後、医療上の助言が必要であることを伝え、便名、位置、乗員・乗客の病状を伝えます。これは、機長が患者の病状が生命に関わるほどではないと判断した場合に使用されます。

古いマニュアルでは、医療目的の場合には「パン-パン、メディコ（Pan-pan Medico）」を使用するとされていましたが、現在ではこの使い方は正式には認められていません。

陸上または付近を航行中の医師と連絡が取れた場合、患者の病状、経過、慢性疾患の有無などを伝え、医師から船内・機内で可能な応急処置の指示を受けます。機長の判断よりも病状が重いことが判明した場合には、メーデーに切り替え、できるだけ早く医療関係者の治療を受けることになります。

関連項目

メーデー
SOS

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