ヒズ・マジェスティーズ劇場 (ロンドン)

ロンドンの名劇場、ヒズ・マジェスティーズ劇場：歴史と変遷

ロンドンのウェストミンスター地区、ヘイマーケットに位置するヒズ・マジェスティーズ劇場は、イギリスを代表する歴史的劇場です。300年以上にわたる歴史の中で、オペラ、バレエ、そしてミュージカルといった様々な舞台芸術を上演し、数々の名場面を生んできました。現在では、1986年から上演が続く世界的ロングランミュージカル『オペラ座の怪人』で広く知られています。

18世紀：華麗なるオペラの時代

劇場は1705年、女王劇場（Queen's Theatre）として開場しました。こけら落としはイタリア語の牧歌劇でしたが成功せず、その後、1711年にはヘンデルがロンドン・デビュー作であるオペラ『リナルド』を上演し、大きな成功を収めました。1714年に国王が交代すると、劇場名も国王劇場（King's Theatre）に変更されました。

1720年には隣接地にヘイマーケット小劇場が開場し、混同を避ける注意が必要です。同年、貴族らによって設立されたロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックは、国王劇場でイタリア・オペラの公演を毎年行いました。ヘンデルの『ラダミスト』を始め、数々の名作が初演され、ロンドンの音楽界を賑わせました。アカデミー解散後も、貴族や富裕層の支援により、著名な作曲家や歌手を招いたオペラ公演が盛んに行われました。ヨハン・クリスティアン・バッハも1762年にこの劇場でデビューを果たしています。

ハイドンも1791年にロンドンを訪れ、ザーロモンの演奏会のための交響曲を作曲しましたが、同時に国王劇場で上演予定だったオペラは、当時の政治情勢により上演されませんでした。1789年の火災による全焼後、1792年に再建されましたが、ナポレオン戦争の影響で大陸からの歌手の招聘が困難となったため、イギリス人音楽家によるオペラ・コンサートが開催され、ハイドンも参加しました。

19世紀：バレエとミュージカルの興隆

1830年代にはメンデルスゾーンが指揮者・作曲家として活躍し、この劇場で作品が初演されました。ヴィクトリア女王の即位（1837年）に伴い、劇場名はハー・マジェスティーズ劇場となり、一時期は「イタリアン・オペラ・ハウス」とも呼ばれました。しかし1867年の火災で再び全焼し、再建後も以前の賑わいを取り戻すまでには時間を要しました。

1897年に現在の建物が建てられ、1916年に初演されたミュージカル『Chu Chin Chow』は2238回ものロングラン公演を記録しました。ヴィクトリア女王の崩御（1901年）後、劇場名はヒズ・マジェスティーズ劇場に戻りましたが、エリザベス2世の即位（1952年）後には再びハー・マジェスティーズ劇場となりました。20世紀に入ると、オペラやバレエに加えて、ミュージカルの上演が増えていきました。

20世紀以降：オペラ座の怪人の成功と現在

1975年にはストール・モス社の所有となり、2000年にはアンドリュー・ロイド・ウェッバーに売却されました。そして、1986年にこの劇場で初演された『オペラ座の怪人』は、世界的な大ヒットとなり、劇場の歴史に新たな1ページを刻みました。2023年5月6日、チャールズ3世の即位に伴い、劇場名は再びヒズ・マジェスティーズ劇場に戻りました。

現在も『オペラ座の怪人』は上演され続け、ヒズ・マジェスティーズ劇場はロンドンの演劇界の中心として、その歴史と伝統を受け継ぎながら、未来へと歩み続けています。300年を超える歴史の中で、数々の名作を上演し、時代の変遷と共に進化してきたヒズ・マジェスティーズ劇場は、これからも観客を魅了し続けるでしょう。

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