ヒトラーに盗られたうさぎ

ヒトラーに盗られたうさぎ

『ヒトラーに盗られたうさぎ』は、2019年にドイツで制作されたカロリーヌ・リンク監督によるドラマ映画です。この作品は、ナチス・ドイツの迫害から逃れるため故郷を追われ、ヨーロッパ各地を転々とするユダヤ人一家の姿を、その家族の一員である幼い少女の視点を通して繊細に描いています。物語の基となったのは、著名な絵本作家ジュディス・カーが自身の幼少期の経験を綴った自伝的児童文学『ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ』です。

あらすじ

時は1933年2月、ドイツの首都ベルリン。そこで両親と兄と共に穏やかな日常を送っていた9歳の少女アンナは、ある朝突然、母から一家でスイスへ避難することを告げられます。彼女の父は、当時の新聞やラジオでヒトラーとその支持者であるナチスに対して辛辣な批判を展開していた著名な演劇評論家でした。ユダヤ人である父は、ヒトラーが権力を掌握し、自身が逮捕される可能性が迫っていることを強く懸念していたのです。故郷に別れを告げることになったアンナは、慣れ親しんだ我が家、優しいメイドのハインピー、そして何よりも大切にしていたぬいぐるみのうさぎと離れることに心を痛めながらも、母と兄と共に未知なる土地スイスへと旅立ちます。それまで何不自由なく、平和な家庭で育ったアンナの日常は、この瞬間を境に一変。一家を待ち受けていたのは、先の見えない過酷な逃亡生活でした。

作品解説

本作の原作となったのは、1971年に発表されたジュディス・カーの同名小説です。カー自身の体験に基づくこの自伝的な物語は、発表以来、特に若い読者向けの文学作品として高く評価され、児童文学における標準的な一冊と見なされています。映画の物語は、原作と同様に1933年3月に行われるドイツの総選挙を目前にした時期から始まります。主人公アンナの父は、ユダヤ系の作家であり演劇評論家として、ナチス政権に批判的な記事を多数執筆しており、それが一家が故郷を離れざるを得なくなった直接的な理由でした。

この物語は、アンナが幼い少女から大人の女性へと成長していく過程を描く三部作の第一部にあたります。原作小説の三部作は、1933年から始まり、1950年代までの長期にわたる一家の流浪と定着の歴史を描いています。映画は、特に一家がドイツを離れ、新たな土地で適応しようともがく初期の苦難に焦点を当てており、歴史の大きな波に翻弄されながらも、家族が互いに支え合い生き抜こうとする姿を描き出しています。

単なる歴史劇にとどまらず、9歳の子供の純粋な目を通して描かれる世界の変化、失われたものへの愛惜、そして新しい環境での葛藤と成長は、観る者に深い感動と共感を呼び起こします。子供時代に突然故郷と平和を奪われた主人公の視点を通じて、戦争や迫害が個人、特に弱い立場の子供たちに与える影響の大きさを改めて考えさせられる作品です。

主要キャスト

アンナ・ケンパー ‐ リーヴァ・クリマロフスキ
マックス・ケンパー ‐ マルノス・ホーマン
ドロテア・ケンパー ‐ カーラ・ジュリ
アルトゥア・ケンパー ‐ オリヴァー・マスッチ
ハインピー - ウルスラ・ヴェルナー
ユリウスおじさん - ユストゥス・フォン・ドホナーニ

この映画は、歴史の暗い一面を描きながらも、家族の愛情と人間の回復力を強く感じさせる作品であり、原作同様に多くの人々に感銘を与えています。

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