ヒバカリ

ヒバカリ

ヒバカリ（学名：Hebius vibakari）は、爬虫綱有鱗目ナミヘビ科ヒバカリ属に分類されるヘビの一種です。この属の模式種とされています。和名には日計、日量、熇尾蛇、竹根蛇といった別名も存在します。

「噛まれたらその日のうちに命を落とす」という意味合いで「日計」という名が付いたと伝えられていますが、これは全くの誤解です。ヒバカリは人間に危害を加えるような強い毒を持たない、非常におとなしいヘビです。かつては毒蛇だと信じられていた時期もありましたが、現在までにヒバカリに噛まれたことが原因で死亡した事例は一切確認されていません。

分類と形態

ヒバカリはいくつかの亜種に分けられています。

ヒバカリ（基亜種） Hebius vibakari vibakari

日本列島（本州、四国、九州、壱岐、隠岐、屋久島など）に広く分布します。成長すると体長は通常40センチメートルから65センチメートルほどになります。胴体の背面にある鱗は斜めに19列並びます。腹面にある幅広の鱗（腹板）は142から153枚、総排出口より後方の尾の鱗（尾下板）は左右それぞれ62から82枚です。背面の体色は淡い褐色や褐色をしています。吻端から口角を経て頸部にかけて、白や淡黄色の特徴的な模様が入ります。腹面の腹板は黄白色で、その外側に黒い斑点が見られます。

ダンジョヒバカリ Hebius vibakari danjoensis

長崎県の男島にのみ生息する固有亜種です。基亜種と比べるとやや小型で、体長は18.1センチメートルから34.2センチメートルほどです。オスは体長に対する尾の長さの比率が30～33パーセント程度と比較的長めです。胴体の鱗の並びは、頸部で19列、胴体中央部や総排泄孔前部では17列です。腹板は127から134枚、尾下板は左右それぞれ88から89枚です。頭部は暗褐色で、胴体は淡褐色に黒褐色の斑点や縦筋状の明るい模様が入ります。この亜種が正式に記載される前は、別のヘビであるザウテルヘビと混同されていた時期がありました。

中国・朝鮮半島の亜種 Hebius vibakari ruthveni

大韓民国、中華人民共和国の黒竜江省、朝鮮民主主義人民共和国、ロシア南東部にかけて分布します。形態的な特徴として、腹板は143から155枚、尾下板は左右それぞれ54から69枚とされます。

生態

ヒバカリは、平地から低山地にある森林に生息しており、特に水辺を好む傾向があります。活動は主に明け方や夕方の薄暗い時間帯に行われることが多いですが、雨天時には日中でも活動することがあります。危険を感じると、鎌首をもたげて威嚇行動をとることがありますが、これは毒蛇に見られるような攻撃的な行動とは異なります。日本本土などに分布する基亜種は、秋の10月頃から翌年の4月頃まで冬眠して過ごします。泳ぐのが非常に得意なヘビです。

食性としては、魚類やカエルとその幼生であるオタマジャクシ、ミミズなどを捕食します。

繁殖は卵生です。基亜種では、主に5月から6月にかけて交尾が行われます。産卵は7月から8月頃に行われ、1回の産卵で2個から10個（平均で6個）の卵を産みます。一方、亜種のダンジョヒバカリは1回に産む卵の数が1個か2個と少ない傾向があります。産み落とされた卵は、およそ34日から37日で孵化します。

保全状況

男島にのみ分布するダンジョヒバカリは、生息地が無人島であるため環境が比較的安定していると考えられています。しかし、その分布域が3平方キロメートル以下と極めて限られていることに加え、隣接する女島には人が出入りする機会があるため、偶発的な外来種の侵入などによる環境の変化が懸念されています。これらの状況から、環境省のレッドリストでは情報不足（DD）に指定されており、今後の調査と注意が必要とされています。

ヒバカリは、名前の印象とは裏腹に、日本の自然の中で静かに暮らす無毒のヘビです。水辺の生態系の一員として、重要な役割を担っています。

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