ヒメムヨウラン

ヒメムヨウラン (Neottia acuminata)

ヒメムヨウランとは、ラン科のサカネラン属に属する多年生の地生植物で、その特徴的な外見から一際目を引きます。葉は退化しており、葉緑素を持たないため、特に地表に生育する他の植物とは異なる生態系に適応しています。この植物は、特に外生菌根菌に寄生して栄養を得る菌従属栄養植物です。

特徴

ヒメムヨウランの根茎は短く、その根は細く多数に束生しています。茎の直径は約1.5～2mmで、高さは10～20cm程度で、淡褐色から赤褐色を呈し、毛がありません。この植物には従来の葉がない代わりに、茎には膜質の鞘状葉が3～4個付いており、これらは2～3cmの長さで先端が鈍くなっています。

花の時期は6月から8月にかけてで、茎の上部には10〜20個の花が総状にまばらに咲きます。花は約5mmの長さで淡い紅褐色をしており、花柄に密接しているために下方の苞葉は目立ちません。この苞葉の長さは1～1.5mmで、卵型をしています。

花の構成は、3個の萼片と2個の側花弁が卵状広披針形でほぼ同じ長さ、すなわち約3mmとなっており、1脈があります。開出した形で反曲する先端が特徴的です。唇弁は萼片とほぼ同じ長さで、やはり三角状卵形に見え、鈍頭で縁は内側にめくれています。この花は倒立して咲くため、唇弁が上を向いているという独特な形状をしています。

生育環境

日本におけるヒメムヨウランの分布は、主に北海道と本州の中部地方以北に見られます。生育場所は亜高山帯の針葉樹林の林床で、比較的涼しい環境を好みます。世界的にはサハリン、ウスリー、カムチャツカ半島、朝鮮半島、台湾、中国大陸およびヒマラヤ地方まで広がっています。

名前の由来

和名の「ヒメムヨウラン」は、「小さくて無葉のラン」という意味で、著名な植物学者・牧野富太郎によって名付けられました。彼は1898年に大久保三郎が採集した標本を基に、この名称を提案しました。また、種小名の「acuminata」は、先端が次第に尖ることを表しています。

保存状況

ヒメムヨウランは、環境省のレッドリストで絶滅危惧II類（VU）に指定されています。都道府県別のレッドデータリストでは、北海道が絶滅危惧II類、栃木県が準絶滅危惧、群馬県と埼玉県が絶滅危惧IA類、神奈川県は絶滅に指定されています。一方で、富山県については情報が不足しており、他の県では様々な評価がされています。

参考文献

• - 北村四郎・村田源・小山鐵夫著『原色日本植物図鑑 草本編III（改訂版）』、1984年、保育社
• - 門田裕一監修、永田芳男写真、『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花（増補改訂新版）』、2013年、山と溪谷社
• - 矢原徹一他監修『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ 増補改訂新版』、2015年、山と溪谷社
• - 牧野富太郎原著『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館

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