ヒュリエウス

ヒュリエウス（古代ギリシア語: Ὑριεύς）は、ギリシア神話に語られる人物です。一般的にはボイオーティア地方の王として言及されることが多いですが、詩人オウィディウスやノンノスといった著述家は、彼を小作人として描いています。その出自や生涯は、いくつかの印象的な物語と結びついています。

ヒュリエウスは、海の神ポセイドーンとアルキュオネーの子として生まれました。ヒュペレーノールやアイテューサといった兄弟がいたとされます。また、ニュンペーのクロニアーとの間には、後にテーバイ王家の祖となるニュクテウスとリュコスという二人の息子をもうけています。

彼はボイオーティアにあるヒュリアという都市に住んでいたとされ、この都市の名前は彼自身に由来すると伝えられています。ただし、異なる伝承では、彼がトラーキアやキオス島に居住していたとする記述も見られます。神話においては、彼がエウノーニュモスをアポローンの神殿から追放したというエピソードも語られています。

ヒュリエウスに関する有名な物語の一つに、彼の宝物庫にまつわる悲劇があります。彼は自身の財産を安全に保管するため、名工と名高かったトロポーニオスとアガメーデースの兄弟に宝物庫の建設を依頼しました。ところが、彼らは建設計画の段階で巧妙な仕掛けを施し、壁の一部を外から簡単に動かせる秘密の通路として設計したのです。宝物庫が完成すると、兄弟はこの仕掛けを利用して夜な夜な侵入し、ヒュリエウスの宝物を盗み出しました。ヒュリエウスは、鍵も封印も破られていないのに財産が減っていくことに大いに困惑し、名工ダイダロスの助言を受けて、宝物庫内に盗賊を捕らえるための罠を仕掛けました。再び宝を盗みに来た兄弟のうち、弟のアガメーデースがこの罠にかかってしまいました。兄のトロポーニオスは、弟が捕らえられたことを知ると、アガメーデースの正体が知られることを恐れ、その場で弟の首を切り落として逃亡しました。しかし、トロポーニオスはレバデイアという地まで逃れたところで、突如として大地が裂け、その裂け目の中に飲まれて姿を消したと伝えられています。この出来事は、彼が犯した罪に対する神罰であるとも解釈されています。

もう一つの重要な伝承は、巨漢の狩人オーリーオーンの誕生に関するものです。後世の物語では、ヒュリエウスはオーリーオーンの父であると語られました。子がおらず、男やもめだったヒュリエウスは、ある時、旅の途中に立ち寄った最高神ゼウスと伝令神ヘルメース（あるいはポセイドーンを含む三柱の神々とも）を手厚くもてなしました。彼の歓待に満足した神々は、ヒュリエウスに願いを一つ叶えると約束しました。子供を切望していたヒュリエウスはその願いを伝えました。神々はこれに応えるため、彼が供儀として捧げた牛の皮に、三柱の神々の尿（あるいは精液）を満たし、その皮を地面に埋めるようヒュリエウスに指示しました。言われた通りに皮を埋めてから九ヶ月後、ヒュリエウスがその場所を掘り起こすと、皮の中に男の子の赤子がいたのです。彼はこの子をオーリーオーンと名付け、自身の養子として育てたといいます。この奇妙な誕生譚から、詩人ノンノスはオーリーオーンを「三人の父を持つ」存在であり、大地（ガイア）を母とする存在だと表現しました。ローマ時代の著述家の中には、この物語とオーリーオーンの名前が、ラテン語で尿を意味する「urina」に関連すると考えた者もいましたが、これは語源学的には正しい見解ではありません。

ヒュリエウスは、このように地名の由来となった存在、宝物庫をめぐる悲劇の当事者、そして特にオーリーオーンの特異な誕生に関わる人物として、ギリシア神話の中で語り継がれています。その社会的地位には異説がある点も、彼の物語を興味深いものにしています。

もう一度検索