ヒュー・ル・ディスペンサー (小ディスペンサー)

初代ル・ディスペンサー男爵ヒュー・ル・ディスペンサーは、1290年頃、イングランドで裕福な貴族の家に生まれました。彼の父は初代ウィンチェスター伯ヒュー・ル・ディスペンサーであり、息子である彼は、父と区別するため「the younger（若い方）」と呼ばれることもありました。

ヒューは1309年に騎士に叙され、当初は国王に反対する勢力に加わっていたと考えられていますが、後にエドワード2世への忠誠を誓うことになります。1313年には国王私財官に任命され、1312年に国王の寵臣であったギャヴィストンが暗殺されると、その地位を継いでエドワード2世の側近として大きな権力を握りました。1314年には、議会にル・ディスペンサー男爵として招集され、正式に貴族の地位を得ます。

しかし、1314年のバノックバーンの戦いでのイングランドの敗北によってエドワード2世の権威は失墜し、反国王派のランカスター伯トマスが台頭しました。ランカスター伯とディスペンサー親子は対立を深め、1321年には国外追放を余儀なくされます。しかし、翌年にはエドワード2世の要請で帰国を果たします。

ランカスター伯はディスペンサー父子の帰国に反発し、国王軍と衝突しますが、バラブリッジの戦い（1322年）で敗れ、処刑されました。その後、ヨークで開催された議会では、国王の権力を制限する改革勅令が廃止され、エドワード2世とディスペンサー親子は権力を回復しました。以降、1326年のクーデターまで、彼らは権勢を振るいました。

ヒューは、実務を嫌うエドワード2世に代わり、政治の実務を多く担いました。彼の治世下では、行政改革が進められ、その功績によって多くの領地を獲得していきました。彼は、ウェールズの有力貴族であるグロスター伯の娘エレノア・ド・クレアと結婚し、ウェールズでの勢力を拡大しました。しかし、急速な出世は、多くの敵を作ることにもつながりました。ウェールズ辺境諸侯からの反感や、1324年には王妃イザベラの所領を没収したことで、王妃をも敵に回しました。

王妃イザベラは、国外に亡命したイングランド貴族と共に、夫であるエドワード2世とディスペンサー親子を打倒するための陰謀を企てました。1326年9月、イザベラとマーチ伯ロジャー・モーティマー率いる反乱軍がイングランドに上陸し、国民の支持を得て反乱は拡大しました。

エドワード2世とディスペンサー親子はウェールズに逃亡しましたが、捕らえられ、ウィンチェスター伯は処刑されました。ヒューは裁判を受け、反逆罪で有罪となり、首吊り、内臓抉り、四つ裂きの刑で処刑されました。翌1327年にはエドワード2世も廃位され、暗殺されました。

ヒュー・ル・ディスペンサーには、エレノアとの間に5人の子供がいました。長男ヒューは後にル・ディスペンサー男爵位を継承し、他の子供たちもイングランド貴族社会で重要な役割を果たしました。彼の生涯は、権力と没落、そして時代の激動を象徴する物語として、後世に語り継がれています。

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