ビッグエッグターフ

スポーツイベントの多様化が進むにつれて、屋根付きスタジアムにおける天然芝フィールドの需要が高まりました。その一つとして、多目的施設である東京ドームでサッカーやラグビーなどの試合開催を目指し開発されたのが、ビッグエッグターフです。

これは、通常は人工芝が敷設されているフィールドの上に、一時的に天然芝を設置するシステムであり、「簡易装着型天然芝」とも称されました。その発想の原点は、1994年にアメリカで開催されたFIFAワールドカップでの経験から生まれました。

当時、国際サッカー連盟（FIFA）の規則では、公式試合での人工芝の使用は認められていませんでした。そのため、W杯の会場として選ばれた屋根付きスタジアム、特にデトロイトのシルバードームでは、人工芝のピッチ上に天然芝を敷設する必要がありました。そこで採用されたのが、事前に根付けされた天然芝を六角形のパレットに収め、それを運び込んで並べるという特殊な工法でした。ビッグエッグターフは、このパレット方式の考え方を参考にしつつ、東京ドーム独自のシステムとして開発が進められました。

ビッグエッグターフは、株式会社東京ドームが複数の建設会社と共同で研究・開発したものです。そのシステムは、契約を結んだ専門の農場で育成された天然芝を、アルミシートを敷いた上で育て、これを試合開催時にロール状に巻き取って東京ドームまで輸送し、フィールド上に敷き広げるという画期的なものでした。このロール方式は、広い面積の芝生を効率的に運搬・敷設できることを目指したものです。

このシステムが初めて実地で試されたのは、1993年にJリーグのプレシーズンマッチとして東京ドームで開催された試合でした。そして同年7月には、「コカ・コーラカップ93」という大会で、初めて本格的な試合で運用されました。多目的施設であるドームで天然芝のサッカー場が出現したことは、当時大きな注目を集めました。

しかし、運用を重ねるにつれて、ビッグエッグターフには深刻な問題があることが明らかになりました。最大の課題は、敷設された天然芝の根がドーム内の環境やアルミシート上では十分に地盤に定着しなかったことです。この根付きの悪さにより、芝生は傷みやすく、試合中に激しく擦れる箇所では芝が剥げて土が露出したり、水分管理の難しさから一部が腐敗したりする現象が頻繁に発生しました。ピッチコンディションの悪化は、選手のプレーにも影響を与えかねない状況でした。

これらの実用上の問題点から、ビッグエッグターフは当初期待されたような多目的利用にはつながりませんでした。実際に使用されたのは、主にJリーグ創設初期に行われた、ごく数回のプレシーズンマッチに限定されました。その後、公式戦や他のイベントで継続的に利用されることはなく、短命に終わったシステムとなりました。

ビッグエッグターフと同様に、同時期には福岡ドームでも天然芝の簡易設置システムが開発・試用されています。こちらは四角形の天然芝パレットを用いる方式でしたが、やはり技術的な課題や運用コストから、試験的な使用に留まり、数回しか使用されませんでした。興味深いことに、この福岡ドームなどで使用されたパレット式天然芝の一部は、1994年の記録的な猛暑によって芝生が壊滅的な被害を受け、緊急な張り替えが必要となった横浜市の三ツ沢公園球技場で一時的に活用された記録も残っています。

ビッグエッグターフの試みは、ドーム型スタジアムで天然芝スポーツを可能にするという先進的なものでしたが、当時の技術レベルではクリアできない壁が存在したことを示しています。芝生の定着、維持管理、そしてコストなど、多くの課題が立ちはだかりました。この経験は、その後の可動式ピッチシステムや高機能人工芝の開発といった、ドームにおけるグラウンド技術の進歩に間接的に影響を与えたと言えるでしょう。関連技術としては、グラウンド全体が外部へ移動して日光や風を受けることで天然芝を育成するホヴァリングサッカーステージなどが挙げられます。

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