ビッグ・ベン

ビッグベン：ロンドンの象徴、その歴史と謎

ロンドンの象徴として知られるビッグベン。ウェストミンスター宮殿にそびえ立つ時計塔（エリザベスタワー）に設置された大時鐘の愛称です。正式名称はエリザベス2世の在位60周年を記念して2012年に改称されましたが、多くの人々は塔全体、あるいは大時計そのものを指して「ビッグベン」と呼んでいます。

時計塔の建設とデザイン

1834年の火災で焼失したウェストミンスター宮殿は、ゴシック建築様式で再建されることになりました。その際、高精度な時計塔の建設が決定。厳格な条件のもと、競争入札で設計案が募られました。チャールズ・バリーを設計責任者とし、オーガスタス・ピュージンが時計塔のデザインを担当しました。ピュージンの初期作品を知る上で重要な建築物となっています。

塔の高さは96.3メートル。下部は煉瓦造、上部は鋳鉄の尖塔で構成されています。議会開催中は尖塔が照らされ、近年はLED照明が使用されています。時計の文字盤は地上55メートルの高さに位置し、その下にはラテン語で女王への祈りが刻まれています。地盤沈下や気温変化の影響を受け、わずかに傾いたり、東西に揺れたりするのも特徴です。

大時計の精緻なメカニズム

大時計は、枢密院議員のエドマンド・ベケット・デニスンと王室天文官のジョージ・ビドル・エアリーによって設計されました。1854年には機械部分が完成していましたが、時計塔の完成（1859年4月10日）を待って設置されました。革新的な二重三脚重力式脱進機を採用することで、従来にはない高精度を実現しています。振り子は時計部屋の真下に設置され、風の影響を最小限に抑えています。動力源は塔内に吊るされた3つの錘で、係員が週3回巻き上げます。機械部分全体の重さは約5トンにもなります。

大時鐘：ビッグベンの「音」

ビッグベンという名は、大時鐘、つまり時計塔で最も大きな鐘の愛称です。初代の鐘は1856年に鋳造されましたが、運用前にひび割れが発生。現在の大時鐘は、2代目として再鋳造されたものです。高さ2.2メートル、直径2.9メートル、重さ13.5トン。ミの音程が半音ずれているという特徴があり、大改修でも修正されませんでした。

1859年7月11日に初めて鳴らされて以来、幾度かの修理を経てきました。鐘の舌によるひび割れを修復する際、ひびの縁に穴を開け、鐘の向きも調整。この修理が、現在ビッグベン独特の音色を生み出しています。2009年には150周年を迎え、壁面に記念のライトアップが施されました。また、2022年のエリザベス2世の国葬では、女王の年齢にちなんで96回鳴らされました。

ウェストミンスターの鐘と日本の学校チャイム

大時鐘とともに、4つの鐘が奏でる「ウェストミンスターの鐘」は、正時を告げるメロディとして有名です。このメロディは、戦後の日本で学校チャイムとして広く採用されることになりました。終戦直後の混乱期、空襲警報を連想させるチャイムに代わる、より平和的な音として、井上尚美氏によって全国の学校に広められました。

ビッグベンの名称と改修工事

「ビッグベン」の名称の由来は諸説ありますが、工事責任者であったベンジャミン・ホール卿の名前に由来するという説が有力です。2012年には、エリザベス2世の在位60周年を記念し、時計塔の名称が「エリザベス・タワー」に改称されました。

時計は毎年夏時間と冬時間の切り替え時に停止され、メンテナンスが行われます。1ペニー銅貨を錘に置くことで時刻調整を行うという、独特の方法も採用されています。2017年から2022年にかけての大規模改修では、約9700万ポンドの費用が投じられました。新型コロナウイルスの流行も工事の遅延要因となりました。

Brexitとビッグベン

Brexitの際には、離脱予定日にビッグベンを鳴らす計画が持ち上がりましたが、予算や手続きの問題から実現しませんでした。最終的には、首相官邸の外壁にビッグベンの映像と録音された鐘の音を流すことでBrexitを祝いました。

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