ビョルン・ヘッケ

ビョルン・ヘッケ：ドイツ極右政治家の実像

ビョルン・ヘッケ（Björn Höcke, 1972年 - ）は、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢 (AfD)」の有力政治家です。テューリンゲン州支部の代表を務め、州議会議員としても活動しています。その過激な言動から、ドイツ社会において大きな論争を巻き起こしており、連邦憲法擁護庁 (BfV) の監視対象にもなっています。

生い立ちと教育

ヘッケはノルトライン＝ヴェストファーレン州リューネンで生まれ、幼少期をラインラント＝プファルツ州で過ごしました。祖父は東プロイセンからの追放者であり、その経験がヘッケの思想形成に大きな影響を与えたとされています。ボン大学で法学を学んだ後、ギーセン大学とマールブルク大学でスポーツ科学と歴史学を修め、ギムナジウムの教師となりました。2014年まで教鞭を執り、高等学校上級教諭として勤務していました。

政治的経歴

初期の思想形成

ヘッケは、キリスト教民主同盟 (CDU) の青年組織に加入したものの、父の影響から国民保守主義や反共主義に傾倒していきました。父はホロコースト否認論者の新聞を購読し、反ユダヤ主義的な発言もしていたとされています。ヘッケ自身も、過去に歴史修正主義的な見解を表明したことがあり、物議を醸しました。

AfDでの台頭

2013年、ヘッケはAfDテューリンゲン州支部を設立し、代表に就任しました。2014年には州議会議員に当選し、党議員団の代表も務めています。党内右派勢力「フリューゲル」を率い、AfDの右傾化を推進しました。2019年のテューリンゲン州議会選挙では、AfDの州首相候補として出馬し、党は第二党に躍進しました。

論争と監視

ヘッケの言動は、ドイツ社会で度々論争の的となっています。彼の発言には、ファシズム、人種差別、歴史修正主義、反ユダヤ主義、ナチズムの要素が含まれていると指摘されています。2020年以降、連邦憲法擁護庁 (BfV) はヘッケを監視対象人物に指定しています。

政治的主張

家族・ジェンダー政策

ヘッケは、伝統的な家族観を重視し、ジェンダー平等を推進する政策に批判的です。彼は、子沢山の家族を理想とし、育児手当の増額を訴えています。また、インクルーシブ教育や早期性教育にも反対しています。

国民社会主義との関連

ヘッケの発言には、国民社会主義（ナチズム）との類似性が指摘されています。彼は、ドイツ帝国時代を理想化し、民族共同体の重要性を強調しています。また、移民問題や難民問題に関する発言は、排他的で差別的なものとして批判されています。

ウクライナ侵攻への対応

ロシアのウクライナ侵攻後、ヘッケは即時停戦を求めました。彼は、アメリカとロシアが地政学的対立の犠牲者になったウクライナに関与すべきではないと主張し、ドイツは自国利益を優先すべきだと訴えました。

ランドルフ・レイディングという偽名

ヘッケは、過去にランドルフ・レイディングという偽名を使って、極右雑誌に論文を掲載していたことが判明しています。この論文では、ナチス・ドイツの時代を賛美し、ドイツ国家民主党 (NPD) のイデオロギーを支持する内容が書かれていました。この偽名使用は、ヘッケの思想的背景をより深く理解する上で重要な要素となっています。

まとめ

ビョルン・ヘッケは、ドイツにおける極右政治の代表的な人物の一人です。その過激な言動や思想は、ドイツ社会に深刻な影響を与えており、今後もその動向から目が離せません。彼の政治活動は、ドイツの民主主義や社会の多様性にとって大きな脅威であるとの指摘もあります。

参考文献
フォルカー・ヴァイス 著、長谷川晴生 訳『ドイツの新右翼』新泉社、2019年。
その他、外国語文献多数

もう一度検索