ビヨルン

ビヨルン：熊に変身する謎めいた人物

ビヨルンは、J・R・R・トールキンの名作『ホビットの冒険』に登場する、特異な存在感を放つ人物です。彼は普段は丸太小屋に住む巨漢の男性ですが、必要に応じて巨大な熊へと姿を変えることができる「スキン・チェンジャー」と呼ばれる獣人です。彼の名にちなみ、熊に変身することを「ビヨルニング（Beorning）」と呼ぶほど、その存在は特別なものです。

自然を愛する孤高の存在

ビヨルンは、「キャロック」と呼ばれる大岩の近くの森に、自分で建てた丸太小屋でひっそりと暮らしています。彼は一人暮らしですが、多くの家畜を召使いとして扱い、身の回りの世話をさせています。動物たちと会話ができる能力を持ち、自然との深いつながりを感じさせます。ガンダルフは彼を「さる人」と呼び、その人格と能力に敬意を払っています。

彼の食生活は自然に根ざしており、蜂蜜やクリームを常食とし、必要に応じて野生動物を狩ります。豪放な人柄で、筋骨隆々の体と髭を蓄えた粗野な外見をしていますが、礼儀には厳格です。ガンダルフは、彼の機嫌を損ねることは危険だと警告するほどです。しかし、礼儀正しい客人をもてなすことを好み、旅人の話に耳を傾ける一面も持ち合わせています。

ゴブリンを憎む心

ビヨルンは自然を深く愛するため、環境を破壊するドワーフ族をあまり快く思っていません。しかし、それ以上にゴブリンを憎んでおり、ゴブリンに敵対する者には好意的な態度を示します。夜には熊の姿で領地を巡回し、キャロックに登るなど、驚異的な速度で移動します。魔法使いラダガストとは親交があり、情報交換などを行っているようです。

外部からの訪問者に対しては警戒心が強いものの、順を追って紹介された場合は心を開きます。ガンダルフは、13人のドワーフとホビットのビルボ・バギンズを二人ずつビヨルンの家に案内し、警戒心を解くことに成功しました。ビヨルンは彼らを食卓に迎え、蜂蜜酒や自家製のパン、焼き菓子を振る舞います。彼のパン作りはかなりの腕前で、訪れる人々を魅了します。

熊の姿で発揮される圧倒的な力

ビヨルンが熊に変身すると、その力は絶大なものになります。ガンダルフによれば、キャロックに穿たれた階段も、ビヨルンの豪腕と爪によって作られたと言われています。熊の姿の彼は獰猛な性格になり、ゴブリンの斥候を捕らえて残酷に晒し者にするなど、敵に対しては容赦がありません。『ホビットの冒険』終盤の「五軍の合戦」では、怒りに燃える巨大な熊の姿で戦場に駆けつけ、ゴブリン軍を蹴散らし、大将ボルグを討ち取るという大活躍を見せます。

戦いの後のビヨルン

合戦後、ビヨルンはビルボやガンダルフと共に帰路につき、その後、霧ふり山脈周辺の広い地域を治める長老として、多くの子孫を残しました。彼の子孫は「ビヨルニング」と呼ばれ、ビヨルンほどの力や大きさは持たないものの、熊に変身する能力を受け継いでいます。中には暗黒軍に加担する者もいましたが、多くはビヨルンの善良な心を受け継ぎ、善人として生きたと伝えられています。

映画におけるビヨルン

実写映画『ホビット』シリーズでは、ミカエル・パーシュブラントがビヨルンを演じました。しかし、制作中に起きたスキャンダルにより、エクステンデッド・エディションでは多くのシーンがカットされるなど、不遇な扱いを受けました。

ビヨルンは、『ホビットの冒険』の世界において、自然と調和し、悪に立ち向かう象徴的な存在です。彼の物語は、読者に勇気と希望を与え、自然との共生の大切さを教えてくれます。

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