ピアノソナタ第4番 (シューベルト)

シューベルト：ピアノソナタ第4番 イ短調 作品164, D 537

フランツ・シューベルトによって1817年に作曲された「ピアノソナタ第4番 イ短調 作品164, D 537」は、彼の初期から中期のピアノソナタ群の中でも、作曲家の創作過程を紐解く上で特に興味深い位置を占める作品です。全3楽章構成で、演奏時間は約25分。このソナタは、後年の大作であるピアノソナタ第20番 イ長調 D 959に、中間楽章の重要な主題が転用されていることで知られており、シューベルトが自身の音楽的アイデアをいかに展開させ、後の傑作へと繋げていったかを示す貴重な証拠となっています。実験的な試みや、その後の彼の作風を予感させる美しい旋律が随所に散りばめられています。

楽曲構成

このソナタは以下の3つの楽章で構成されています。両端楽章は3拍子系のリズムを持ち、中心に緩徐楽章が置かれるという伝統的な配置ながら、各楽章にはシューベルトならではの個性と創意が見られます。

第1楽章 アレグロ・モデラート

イ短調、8分の6拍子、ソナタ形式。序奏はなく、力強いオクターヴ奏法による「E-D-C-C-H-A」という下降音階の主題でいきなり開始されます。この主題はどこか内省的でありながら推進力を持っています。楽章全体を通じて、シューベルトらしい頻繁な遠隔調への転調が見られ、調的な不安定さ、あるいは探求が感じられます。特に注目すべきは、ソナタ形式の再現部が主調であるイ短調ではなく、ニ短調で始まる点です。再現部に主調以外の調を導入するというこの手法は、当時のシューベルトが他のソナタでも試みていたものであり、形式に対する彼の自由な発想や実験精神を示しています。

第2楽章 アレグレット・クアジ・アンダンティーノ

ホ長調、4分の2拍子。この楽章は、全曲の中でも特に親しまれている部分であり、美しく、まるで歌曲のような叙情的な旋律が特徴です。作曲家自身がこの主題を非常に気に入っていたとされており、その証拠に、この楽章の主要な旋律は、約11年後に書かれたピアノソナタ第20番 イ長調の終楽章に、ほとんどそのままの形で転用されています。形式は転調を伴うロンド形式と考えられます。右手によるオクターヴ奏法で歌われる主題（「H-E-E-Dis-E」や「Fis-Gis-E-Gis-Fis」のような音形）は、聴く者の心に深く染み入ります。主題は一度ヘ長調で繰り返された後、再び元のホ長調に戻り、静かに閉じられます。

* 第3楽章 アレグロ

イ短調、8分の3拍子。両手によるユニゾンで奏される躍動的な主題によって開始されます。この楽章は、冒頭は主調であるイ短調で始まるものの、楽章の終結部は同主長調であるイ長調で締めくくられます。全体を通して、短調と長調の間を行き来するような調性の不安定さ、あるいは変化が多く見られ、前の楽章とは対照的な推進力と劇的な要素を持っています。

このソナタは、シューベルトがその後の傑作群へと至る過程で、様々な形式的、和声的な実験を行っていた様子をよく示しています。特に第2楽章の旋律の再利用は、作曲家の「ストック」の中から傑出したアイデアがどのように選ばれ、発展していったかを知る上で非常に興味深い事実です。シューベルトのピアノ作品における初期の探求と円熟期への架け橋となる、重要な作品の一つと言えるでしょう。

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