ピアノ三重奏曲第1番 (メンデルスゾーン)

メンデルスゾーン：ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 作品49

フェリックス・メンデルスゾーンによって作曲された「ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 作品49」は、彼の室内楽作品の中でも特に重要な位置を占める傑作です。

メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲として広く知られているのは、この第1番と、それに続く第2番の二曲です。ただし、作曲家が11歳だった1820年には、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラのためのハ短調の三重奏曲も書かれています。これは初期の習作と位置付けられ、作品番号は付与されていませんが、1970年に出版されました。

この第1番は1839年9月23日に完成されました。同年秋にはライプツィヒで初演が行われ、その際にはメンデルスゾーン自身がピアノを、友人のヴァイオリニスト、フェルディナンド・ダヴィッドがヴァイオリンを務めました。初演では、当時発見されたばかりのシューベルトの交響曲第8番「ザ・グレート」なども同時に演奏されています。

楽譜は1840年に一度出版されましたが、その後ダヴィッドの助言を受け、特に終楽章を中心に改訂が加えられました。このため二種類の版が存在し、今日一般的に演奏されているのは改訂後の第2版です。優れたピアニストでもあったメンデルスゾーンの作品らしく、この三重奏曲は高度な演奏技巧が要求されます。

同時代の著名な作曲家であるロベルト・シューマンは、この作品に深い感銘を受けました。彼はこれを「ベートーヴェン以来、最も偉大なピアノ三重奏曲」であると高く評価し、メンデルスゾーンを「19世紀のモーツァルト、最も輝かしい音楽家」と称賛しました。シューマンの言葉は、本作が当時の音楽界に与えた衝撃と、その卓越した芸術性を示しています。

楽曲構成

この三重奏曲は以下の四つの楽章で構成されています。

1. 第1楽章：アレグロ・モルト・アジタート (Allegro molto agitato)
ニ短調、4分の3拍子。情熱的なソナタ形式楽章。冒頭でチェロが第1主題を提示し、ヴァイオリンがこれに続きます。移行部を経て、チェロが第2主題を提示。展開部では二つの主題が展開され、再現部、そしてピアノが活躍するコーダへと続きます。

2. 第2楽章：アンダンテ・コン・モート・トランクィロ (Andante con moto tranquillo)
変ロ長調、4分の4拍子。穏やかな3部形式。ピアノ独奏で始まり、弦楽器が叙情的な旋律を奏でます。ピアノによる副主題の提示、中間部での短調への転調などを経て、主要主題が静かに回想され楽章を閉じます。

3. 第3楽章：スケルツォ：レッジェーロ・エ・ヴィヴァーチェ (Scherzo: Leggiero e vivace)
ニ長調、8分の6拍子。軽快で生き生きとしたスケルツォ形式。ピアノが主題を提示し、弦楽器に引き継がれます。メンデルスゾーンらしい妖精的な雰囲気を持つ楽章です。

4. 第4楽章：フィナーレ：アレグロ・アッサイ・アパッショナート (Finale: Allegro assai appassionato)
ニ短調からニ長調へ、4分の4拍子。情熱的な終楽章で2部形式。第1主題はピアノで提示後、弦楽器が加わり展開。第2主題は主に弦楽器で奏されます。終盤はニ長調に転じ、二つの主題が再び現れ、全曲を熱狂的に締めくくります。

メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番は、その美しい旋律、洗練された構成、そして演奏に求められる高い技巧により、19世紀ロマン派の室内楽を代表する作品として、今日でも世界中で演奏されています。

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