ピアノ協奏曲 (クララ・シューマン)

クララ・シューマンは、優れたピアニストとして知られる一方で、作曲家としても数々の作品を残しました。中でもピアノ協奏曲イ短調作品7は、彼女が生涯に完成させた唯一のピアノ協奏曲として重要な位置を占めています。彼女は後にヘ短調のピアノ協奏曲にも着手しましたが、こちらは第1楽章の途中で未完に終わっています。

作曲の経緯

この協奏曲の作曲は、クララが13歳だった1833年1月に始まりました。同年11月22日には、まず単一楽章の形で一度完成しています。その後、夫となるロベルト・シューマンの協力を得ながらオーケストレーションの改訂を行い、1834年2月24日には現在の第3楽章が完成しました。さらに加筆修正が進められるとともに、第1楽章と第2楽章が追加され、最終的に現在の3楽章構成として完成したのは1835年のことです。楽譜は1837年に出版され、当時著名なヴァイオリニスト兼作曲家であったルイ・シュポーアに献呈されました。

初演

この作品は、ライプツィヒのゲヴァントハウスにおいて、作曲者自身がピアノ独奏を務め、フェリックス・メンデルスゾーンが指揮、ゲヴァントハウス管弦楽団が演奏するという、最高の布陣で初演されました。まず、完成していた第3楽章のみが1834年5月5日に先行して演奏され、その後の改訂・加筆を経て全3楽章として完成された後、1835年11月9日に改めて全曲の初演が行われています。

作品の内容

楽曲は全体を通して切れ目なく演奏されるのが大きな特徴です。3つの楽章は、それぞれが独立した性格を持ちながらも、アタッカで連続して演奏されます。

第1楽章 Allegro Maestoso

イ短調、4分の4拍子で始まります。自由なソナタ形式の要素を持っています。力強い付点リズムの上昇する主題がオーケストラによって提示され、この主題の動機は作品全体の核となっています。続いてピアノが3連符の音形でオーケストラと掛け合い、静かになったところでピアノソロによって装飾された第1主題が優雅に奏されます。その後に現れるやや半音階的に下降する旋律は、形式上は第2主題的な役割を果たしますが、調性は変化しないため厳密には第2主題とは呼ばれません。ピアノが華やかに動き回った後、ヘ短調に転調して展開部に入ります。展開部では第1主題の動機が支配的ですが、ピアノは常に忙しくパッセージを奏でます。ホ長調に転じ、ピアノの激しい打鍵とオーケストラが一体となって第1主題を壮大に奏で、頂点を迎えます。静寂の後、チェロとクラリネットが第2楽章の主題を予感させる旋律を奏で、ピアノの響きと共にアタッカで第2楽章へ繋がります。

第2楽章 Romanze. Andante non troppo con grazia

変イ長調、4分の4拍子。この楽章は編成が特徴的で、オーケストラは休止し、ピアノ、チェロのソロ、ティンパニのみで演奏されます。第1楽章の余韻を受け継ぎ、シンプルなピアノ伴奏の上で優しい旋律がチェロによって歌われます。この旋律は装飾を伴いながら発展した後、ホ長調で半音階的な旋律が現れます。再び変イ長調に戻ると、チェロのソロが情感豊かに旋律を奏でます。ここではピアノが3連符を主体とした伴奏に徹し、チェロとの緊密なアンサンブルを繰り広げます。チェロが歌い終えると、ピアノのアルペジオと和音に続き、ティンパニのロールとチェロの低い響きが不穏な雰囲気を醸し出します。この部分が繰り返された後、アタッカで第3楽章へと突入します。

第3楽章 Allegro non troppo - Allegro molto

イ短調、4分の3拍子。静かなピアノの和音にティンパニのロールが重なり、トランペットのファンファーレが響き渡ると、ピアノがシンコペーションを多用した力強い主題を提示します。オーケストラがこれに応答した後、全合奏による間奏を経て、ピアノが6連符を伴う憂いを帯びた旋律を奏でます。これは調性は変わりませんが便宜上第2主題とされます。この旋律がやや明るさを帯びて十分に歌われた後、再び管楽器のファンファーレが響き、イ長調で最初の主題が華やかに再現されます。ピアノはひたすら細かい音形で動き回ります。やがてオーケストラが低音を強調した分厚い響きで最初の主題を堂々と奏で、イ短調に戻ると、ピアノに第2主題が再び現れます。ファンファーレを経て再現部に入り、イ短調で第1主題が奏され、無窮動的な音形の連鎖となります。続いて第2主題が静かに歌われ、木管楽器との美しい対話が交わされます。しかし突如、ピアノと弦楽器がリズミカルな下降音形を奏で、テンポを「Allegro molto」に速め、4分の2拍子となってコーダに突入します。ピアノが激しく鳴り響き、オーケストラと一体となって壮大な響きを築き上げ、最後はイ短調の主和音を力強く打ち付けて曲を閉じます。

録音

比較的よく知られた作品であり、現代でも多くのピアニストや指揮者によって録音されています。輸入盤を中心に複数の演奏を聴くことが可能です。

ピアノ協奏曲断章ヘ短調

この協奏曲の他に、クララは1847年にヘ短調のピアノ協奏曲の作曲に着手しています。これは夫ロベルトの誕生日プレゼントとして構想されましたが、この時期は長男の死やロベルトの体調不良といった困難な状況が重なり、わずか176小節のスケッチと一部のオーケストレーションのみで未完に終わりました。しかし、1990年に音楽学者のヨーゼフ・デ・ベーンホウェルによって補筆・オーケストレーションが施され、完成版として出版されています。ロベルトの協奏曲を参考に2管編成で書かれており、演奏時間は補筆版で約13分程度です。

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