ピアノ協奏曲第6番 (ベートーヴェン)

ピアノ協奏曲第6番ニ長調 Hess 15

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン（1770-1827）が作曲に着手したものの、最終的に完成に至らなかった作品の一つに、「ピアノ協奏曲第6番」ニ長調 Hess 15があります。この協奏曲は、ベートーヴェンの創作活動の後期にあたる1814年の暮れから翌1815年の初めにかけて構想されたと考えられています。

作曲の経緯と未完の理由

ベートーヴェンは、このピアノ協奏曲のために相当な時間と労力を費やしたことがうかがえます。しかし、多忙であったことや創作上の困難が重なったためか、この作品が完全な形になることはありませんでした。彼が残した資料からは、第1楽章だけで約70ページに及ぶ詳細なスケッチが存在することが分かっています。

さらに、ベートーヴェンは実際に総譜の作成にも着手していました。現存する総譜の断片（ベルリン国立図書館所蔵のMS Artaria 184）を見ると、楽章の冒頭から独奏ピアノが登場する部分の半ば、具体的には182小節目あたりまでは、比較的スムーズに筆が進められていた様子が確認できます。しかし、その先からは記述が断片的になり、飛んだり空白が目立つようになります。このことから、ベートーヴェンが曲の展開や構成に行き詰まりを感じ、理想とする形を見出せずに苦悩していた様子が読み取れます。

結局、ベートーヴェンはこの協奏曲の作曲を断念しました。ヘス15として識別されるこの未完の断片は、ベートーヴェンが生前に発表しなかった数多くの着想の中でも、特に規模の大きなものの一つとして今日に伝えられています。

後世の補筆

未完のまま残されたこの協奏曲の第1楽章は、後世の研究者によって補筆が試みられています。特に、イギリスの音楽学者ニコラス・クックは、ベートーヴェンの残したスケッチや総譜断片に基づき、1987年にこの第1楽章を補筆・完成させた演奏可能な版を作成しました。これにより、ベートーヴェンの未完の構想の一端を現代に蘇らせることが可能となりました。

もう一つの「ピアノ協奏曲第6番」

ベートーヴェンがオリジナル作品として作曲し、完成させたピアノ協奏曲は、広く知られているように第1番から第5番「皇帝」までの5曲のみです。しかし、ベートーヴェン自身が「ピアノ協奏曲第6番」と関連付けられることのある、もう一つの作品が存在します。

それは、彼が1807年に作曲したヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品61を、自身でピアノ協奏曲へと編曲した作品61aです。この編曲版もまたニ長調であり、ヴァイオリン協奏曲の楽曲構成を踏襲しています。

ここで解説している未完の協奏曲ヘス15は、その名の通り完成に至らず、後世の補筆がなければ演奏できない状態です。これに対し、作品61aは、元がヴァイオリン協奏曲の編曲ではあるものの、ベートーヴェン自身の筆による完成された作品として存在します。そのため、ヘス15ではなく、この作品61aの方を「ベートーヴェンのピアノ協奏曲第6番」と呼ぶ場合も少なからずあります。

ベートーヴェンの未完の協奏曲ヘス15は、彼の創造の過程における試行錯誤や、実現しなかった可能性を示す貴重な資料です。後世の補筆版によって、その断片的ながらも力強い音楽に触れる機会が与えられています。

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