ピアノ協奏曲第8番 (モーツァルト)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが手掛けたピアノ協奏曲第8番 ハ長調 K. 246は、『リュッツォウ』という愛称で広く親しまれている作品です。

モーツァルトは、1773年にピアノ協奏曲第5番を完成させてから、およそ3年間にわたりこのジャンルの新作を発表していませんでした。しかし、1776年に入ると状況は一変し、立て続けに3曲のピアノ協奏曲（第6番、第7番『ロドロン』、そして本作）を集中的に作曲しました。この背景には、当時のザルツブルクにおいて、貴族や裕福なブルジョワ階級からの楽曲の注文が著しく増加したことが挙げられます。これらの注文には、ピアノ協奏曲の他にも、祝典などで演奏されるセレナードのような機会音楽が多く含まれていました。

このピアノ協奏曲第8番は、1776年4月にザルツブルクの音楽愛好家であったリュッツォウ伯爵夫人の依頼を受けて作曲されました。リュッツォウ家はザルツブルク大司教ヒエロニュムス・フォン・コロレドの親戚筋にあたる名家であり、特に夫人はコロレド大司教の姪にあたります。彼女はモーツァルトの父レオポルトから直接ピアノの指導を受けていた経験があり、自身もアマチュアのピアニストでした。

伯爵夫人がアマチュアの演奏家であったことを考慮し、モーツァルトは独奏ピアノのパートを、過度に高度な技巧を要求しないよう配慮して作曲しました。このため、この曲はモーツァルトの他の協奏曲に比べて比較的演奏しやすいとされています。しかし、この作品は依頼主のためだけに書かれたわけではなく、モーツァルト自身が後にウィーンへ移ってからも、生徒への教材として活用していたことが知られています。また、モーツァルト自身が書き記したカデンツァが3種類現存しており、当時の演奏習慣や作曲家の意図を知る上で貴重な資料となっています。

本作の楽器編成は、独奏ピアノに加え、オーボエ2本、ホルン2本、そして弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）という、当時の標準的な規模となっています。

曲は全3楽章で構成されており、全体の演奏時間はおよそ23分です。各楽章の詳細は以下の通りです。

第1楽章 アレグロ・アペルト：ハ長調、4分の4拍子。ソナタ形式で書かれており、「アペルト（開かれた、のびのびした）」という指示が付けられています。
第2楽章 アンダンテ：ヘ長調、4分の2拍子。静かで落ち着いたテンポのアンダンテ楽章で、こちらもソナタ形式が用いられています。
* 第3楽章 ロンドー：テンポ・ディ・メヌエット：ハ長調、4分の3拍子。ロンド形式で、メヌエット風のテンポで演奏されます。

このピアノ協奏曲第8番は、ザルツブルク時代のモーツァルトが、特定の依頼主の演奏能力に合わせて作曲した好例であり、その後のウィーンでの協奏曲の発展に向けた重要な一歩を示す作品と言えるでしょう。

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