ピエール・ドリュ＝ラ＝ロシェル

ピエール・ドリュ・ラ・ロシェル：ファシズムと葛藤の生涯

ピエール・ドリュ・ラ・ロシェル（1893-1945）は、20世紀フランスを代表する作家の1人でありながら、その生涯はファシズムへの傾倒と、それに伴う葛藤と悲劇に彩られています。裕福な家庭に生まれ、パリ政治学院で学んだ彼は、第一次世界大戦で兵士として従軍。戦場での経験は、彼の思想に大きな影響を与えたと考えられています。

戦後、放蕩の生活を送る傍ら、詩集や小説を発表し作家としての道を歩み始めます。しかし、彼の視線は次第に政治へと向けられていきます。アメリカとソ連の台頭を前に、ヨーロッパの再生のためにはファシズムしかない、と信じるようになったのです。

1936年、彼はファシズム政党であるフランス人民党に入党しますが、党首との意見の相違から1939年には離党します。同年、フランスがドイツに宣戦布告すると召集されますが、すぐに除隊。その後、フランスの降伏後にはヴィシー政権に協力し、親独的な言論活動を行います。具体的には、親独的な雑誌の編集長に就任したり、反ユダヤ主義的な記事を執筆したりするなど、積極的にファシズムを支持する立場をとりました。しかし、彼の活動は1943年には頓挫します。

ドイツ敗戦が近づくと、ドリュ・ラ・ロシェルは自己嫌悪に陥り始めます。1944年、ドイツ軍がフランスから撤退する際には、同行を拒否してフランスに残りました。同年秋には自殺未遂を起こし、その後は逮捕を逃れて潜伏生活を送ることになります。そして1945年3月、レジスタンスの報復を恐れて、自ら命を絶ちました。

ファシズムと芸術：ニーチェと宗教

ドリュ・ラ・ロシェルの文学における大きなテーマは「芸術」です。彼にとって芸術とは、「自然としての人間と社会的存在としての人間を繋ぐ役割を取り返す」ものでした。彼は、マルクス主義への対抗軸としてニーチェの思想を高く評価し、『ファシスト社会主義』といった著作を発表しています。

特に、短編小説『二重スパイ』は彼の思想をよく表しています。この作品では、共産主義者と帝政ロシアの両方にスパイとして仕えた人物が、両陣営から処刑される様子が描かれます。この主人公は、政治的立場を明確に表明することなく、ニーチェ的な超越性へと向かおうとしています。

ドリュ・ラ・ロシェルは、ニーチェ的な「芸術の深い意味」、つまりその宗教的な次元を探求するために、ファシズムという「政治構成体」への参加を必要としたと考えていたのかもしれません。彼は政治的活動を通して「責任をとり、極端なまでに身を危険におくこと」によってのみ、文学作品の中で読者と同様の境地に達することができると信じていたのです。

晩年、彼の関心は宗教へと移っていきます。日記や小説作品を通して、古今東西の宗教史を研究しながら、宗教的超越性への探求を続けました。そこには、常にニーチェの思想が影を落としますが、初期の政治的に利用されたニーチェ主義とは異なるニュアンスが感じられます。

結論

ピエール・ドリュ・ラ・ロシェルは、複雑で矛盾に満ちた人物でした。ファシズムへの共感、それに伴う政治活動、そして晩年の宗教的探求。彼の生涯は、20世紀の激動の時代を反映しており、現代においても多くの議論を呼ぶ、魅力と謎に満ちた存在と言えるでしょう。彼の作品群は、その思想的変遷と葛藤を理解する上で重要な手がかりとなります。彼の残した著作は、単なる文学作品を超え、現代社会を考える上でも重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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