ピエール・ブロンベルジェ

ピエール・ブロンベルジェ：フランス映画界の巨匠

ピエール・ブロンベルジェ (1905-1990) は、20世紀フランス映画史に燦然と輝くプロデューサーにして、俳優である。パリの医者の家庭に生まれた彼は、7歳の頃、ゴーモン劇場で観た『ファントマ』に魅せられ、映画界への道を志す。医学の道は捨て、並々ならぬ情熱を映画に注ぎ込んだ彼の生涯は、まさに映画そのものの歴史と言えるだろう。

若き日のブロンベルジェは、早くも15歳でドイツで自身の映画を制作・監督。その後、ベルリン、ロンドンを経て、1923年にはアメリカへ渡る。20世紀フォックス社やメトロ・ゴールドウィン・メイヤーで経験を積み、ハリウッドの映画製作現場を肌で感じ、数々の巨匠と交流を深めた。このハリウッドでの経験は、後に彼がフランス映画界で活躍する上で大きな礎となった。

18ヶ月間のアメリカ滞在を終え、ブロンベルジェはフランスへ帰国。ジャン・ルノワールら巨匠たちとの出会いは、彼の映画人生に更なる彩りを加えた。『水の娘』『女優ナナ』『のらくら兵』といった名作の制作に携わり、フランス映画界の中核を担う存在へと成長していく。

1929年、彼は自身の製作会社レ・プロデュクション・ピエール・ブロンベルジェ社、そしてNéofilms社を設立。フランス語トーキー映画の先駆けとなる作品を世に送り出した。翌年には「シネマ・デュ・パンテオン」の責任者となり、60年以上に渡りその運営に携わる。ホールの改修、最新の設備導入、字幕スーパーのない時代における外国映画の上映など、彼の尽力は映画館そのものの発展に大きく貢献した。

1930年代には、ロジェ・リシュベーとの共同事業所を設立、ジャン・ルノワールの『牝犬』など数々の作品を製作。1933年には「ビヤンクール撮影所」(後の「パリ・ステュディオ・シネマ」) を取得し、独立プロとして本格的に映画製作に乗り出す。第二次世界大戦中は、ゲシュタポの地方支署を撮影スタジオに改築するという大胆な行動に出た。この場所が、後のヌーヴェルヴァーグを代表する才能、ジャン＝ピエール・メルヴィル、ジャン＝リュック・ゴダール、アラン・レネといった監督たちとの出会いの場となったことは、特筆に値する。

ブロンベルジェの活動は多岐に渡り、1966年にはベルリン国際映画祭の審査委員長も務めた。彼のプロデューサーとしての功績は計り知れず、フランス映画界のみならず、世界映画史に大きな足跡を残した。

彼のフィルモグラフィは膨大である。1920年代から1990年代にかけて、数えきれないほどの映画に関わった。ジャン・ルノワール、フランソワ・トリュフォー、ジャン＝リュック・ゴダールといった巨匠たちの作品から、アラン・レネ監督の短編ドキュメンタリーまで、その幅は実に広い。

ゴダールはブロンベルジェを評して「多くの人々が映画を愛していましたが、ごくごく少数の人が映画に愛されていました。あなたはその後者です」と述べている。この言葉は、ブロンベルジェの映画への並々ならぬ愛情と、映画界への貢献を端的に表していると言えるだろう。彼は、単なるプロデューサーの枠を超え、フランス映画界を支え、発展させた真の巨匠であった。彼の情熱と功績は、これからも映画史に語り継がれていくことだろう。

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