ピンネシリ登山マラソン

ピンネシリ登山マラソンは、北海道樺戸郡新十津川町を舞台に開催されていた、他に類を見ない山岳マラソン大会です。町のシンボルであるピンネシリ山の山頂を目指し、往復する過酷なコース設定が大きな特徴でした。1995年に第1回大会が開催されて以来、多くのランナーが挑戦を続けましたが、残念ながら2024年7月7日の第30回大会をもって、その歴史に終止符が打たれることとなりました。

大会の歩み

この大会は、砂川市立病院の医師であった福田正人氏の発案によって誕生しました。当初は新十津川町観光協会や体育協会の協力を得て、温水プールなどを活用したトライアスロン大会の一部として企画されました。創設当初はピンネシリ山頂への往復コースのみが設けられ、参加者は約40名程度でこじんまりと開催されていました。

開催からおよそ10年が経過した第10回大会の頃からは、より短い距離の町民コースが新たに加えられ、地域住民や子どもたちも気軽に参加できるようになりました。これにより、大会は地域に根ざしたイベントとしても発展し、参加者数は徐々に増加していきました。特に2015年には参加者数がピークを迎え、575名ものランナーがエントリーするなど、その規模を拡大しました。大会の名誉会長には、オリンピアンである橋本聖子氏が名を連ねていました。

近年、世界的に流行した新型コロナウイルスの影響を受け、2020年と2021年の大会は開催が見送られました。しかし、2022年からは無事に再開され、ランナーたちは再びピンネシリの山に挑む機会を得ました。

コースについて

ピンネシリ登山マラソンのコースは、新十津川町ふるさと公園を起終点として設定されていました。主なコースは地形や路面状況によって大きく三つの区間に分かれていました。

1. ふるさと公園～そっち岳スキー場入口（約6km）: この区間は主に舗装された道路を中心としていました。
2. そっち岳スキー場入口～ピンネシリ登山道5合目付近（約8km）: スキー場から山へと向かうこの区間は、未舗装の林道が中心となっており、ランナーの足元を試す道でした。
3. ピンネシリ登山道5合目付近～ピンネシリ山頂（約7km）: 登山道に入ると再び舗装された道となり、標高を稼ぎながら山頂を目指しました。

大会には距離や難易度の異なる複数のコースが設けられていました。

- 山頂コース（42km）: ふるさと公園からピンネシリ山頂まで、片道21kmを往復する最長かつ最も過酷なコースです。標高差は1,030mにも達し、まさに「登山マラソン」の名にふさわしいものでした。
- 30kmコース: ふるさと公園からピンネシリ5合目まで、片道15kmを往復するコースです。山頂コースよりは短いものの、標高差400mと十分な登り応えがありました。
- 15kmコース: ふるさと公園からそっち岳スキー場奥まで、片道7.5kmを往復するコースです。標高差90mと比較的小さく、多くのランナーが参加しやすい距離設定でした。
- 町民コース（4km）: 新十津川町に居住または勤務する地域住民を対象とした、最も短いコースです。

大会を終えるにあたって

大会は多くの人々に親しまれ、ピンネシリの自然を満喫できる貴重な機会を提供してきましたが、継続が困難となる複数の課題に直面しました。

近年の夏の猛暑は深刻な問題となり、競技中に体調を崩し途中棄権するランナーが続出する事態が発生しました。特に2022年の大会では、最も距離の長い42kmコースに参加したランナーの半数が、過酷な暑さのためにレースを断念せざるを得ませんでした。今後も夏の気温上昇が予測される中で、ランナーの安全確保が極めて難しくなることが懸念されました。

加えて、コースの一部である山道では、倒木や路面状況の悪化が見られるようになりました。このような状況では、万が一ランナーが怪我や体調不良で棄権した場合、迅速かつ安全に下山させたり医療機関へ移送したりすることが困難になるという課題も顕在化しました。

これらの要因、すなわちランナーの安全確保の難しさ、過酷な自然環境による運営リスク、そしてそれに伴う救護・移送体制の課題を総合的に判断した結果、大会を継続することは難しいとの結論に至りました。そして、1995年の開始から数えて30回目となる2024年7月7日の大会をもって、ピンネシリ登山マラソンは惜しまれつつもその歴史に幕を下ろすこととなりました。

29年間にわたり、多くのランナーがピンネシリの山に挑み、様々なドラマが生まれました。地域の活性化にも貢献したこの大会は、参加者や関係者の記憶の中に深く刻まれることでしょう。

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