ピーターパン♠症候群

ピーターパン♠症候群：夜空を舞う少女の物語

酒井まゆ氏による漫画作品『ピーターパン♠症候群』は、2005年に『りぼん』誌上で連載された全9話の作品です。わずか2巻の単行本に収められた、短くも奥深い物語は、多くの読者に印象を残しました。

物語の中心は、12歳の少女・蓮見琥珀です。琥珀は、太陽が隠れている時間、つまり夜や雨の日などに、空を飛んだり物を動かしたりする不思議な力を持っています。この能力ゆえに、彼女は幼い頃から何度も引っ越しを繰り返してきました。今回、彼女は行方不明の母親を探すため、新しい街に引っ越してきます。

引っ越し初夜、琥珀は空を飛びながら携帯電話を落としてしまい、それを拾ったのが、マンションに住む少年・橘夕露でした。その後、琥珀は夕露を危機から救い、二人は不思議な絆で結ばれていきます。夕露は琥珀の能力を受け入れ、母親探しの手伝いを申し出ます。

琥珀の能力は、単なるファンタジーではありません。物語が進むにつれ、超能力の恐ろしさや、超能力者を研究する研究所の存在、琥珀の出生にまつわる秘密などが明らかになり、SF的な要素も加わってきます。

物語には、琥珀の能力の謎、透子の転校の目的など、多くの伏線が張り巡らされています。短い話数で終わったことや、作者の「もう少し描きたかった」という発言から、連載打ち切りだった可能性が高いと考えられます。

物語を彩る登場人物たちも魅力的です。成績優秀で容姿端麗な夕露は、一見冷淡に見えますが、琥珀を優しく見守っています。琥珀の友達である透子は、過去に超能力者として研究所に所属していましたが、今は能力が衰えつつあります。そして、琥珀の両親やペットのウェンディも、物語に深みを与えています。ウェンディは、実は琥珀の母親の意識が宿った黒猫なのです。

琥珀の能力は、作品タイトルにも深く関わっています。「ピーターパン症候群」とは、大人になることを拒否する状態を指しますが、この作品では、琥珀の遺伝子操作によって引き起こされた、成長の遅れを暗示しています。

『ピーターパン♠症候群』は、少女の成長と冒険、そして超能力というミステリアスな要素が絡み合った、独特の世界観を持つ作品です。未解決の謎や伏線、そして短いながらも印象的な物語は、読者に多くの余韻を残します。短い連載ながらも、その世界観やキャラクターの個性、そして未回収の伏線は、読者に強い印象を与え、長く記憶に残る作品となっています。

主な登場人物

蓮見琥珀: 主人公。夜空を飛ぶ力を持つ少女。母親を探している。
橘夕露: 琥珀のクラスメイト。成績優秀で容姿端麗な美少年。琥珀の能力を受け入れ、母親探しを協力する。
橘暁里: 夕露の双子の弟。社交的で明るい性格。
鏡透子: 琥珀の友達。過去に研究所に所属していた超能力者。
蓮見鈴: 琥珀の父親。研究所の元所員。
蓮見雫: 琥珀の母親。既に亡くなっている。
* ウェンディ: 琥珀のペットの黒猫。人間の言葉を話し、空を飛ぶことができる。雫の意識が宿っている。

作品中には、読者参加企画で選ばれた、琥珀が虹をかけたり、ウェンディがくしゃみで火を吹いたりする設定も構想されていたようです。しかし、連載打ち切りによって実現しなかったことが、惜しまれます。

『ピーターパン♠症候群』は、短いながらも、多くの謎と魅力的なキャラクターで彩られた、忘れがたい作品と言えるでしょう。

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