ピーターラビットと仲間たち/ザ・バレエ

『ピーターラビットと仲間たち/ザ・バレエ』とは

1971年にイギリスで製作された映画『ピーターラビットと仲間たち/ザ・バレエ』（原題：The Tales of Beatrix Potter）は、世界中で愛されるビアトリクス・ポターの絵本『ピーターラビットのおはなし』を含む一連の物語群を基にした、英国ロイヤル・バレエ団による画期的なバレエ作品です。この映画は、制作から7年後の1978年7月に日本でも公開され、多くの観客にポターの描く愛らしい世界とバレエ芸術の融合を届けました。

独自の表現形式と魅力

本作が特に注目されるのは、その独創的な表現形式にあります。絵本に登場するウサギやアヒル、ネコといった動物のキャラクターたちは、ロイヤル・バレエ団のダンサーたちが演じています。しかし、単に人間が動物を模倣するのではなく、ダンサーたちはそれぞれの役柄のために精巧に作られたマスクと衣装を着用します。これにより、まるで絵本から抜け出してきたかのような、視覚的に非常に印象的なキャラクターたちが舞台上で躍動するのです。

映画は全編を通して、セリフやナレーションといった言語による説明を一切排しています。物語は全て、音楽とバレエによるダンスのみで語り継がれます。この大胆な手法は、バレエ映画としては異例でありながら、観客に視覚と聴覚に集中することを促し、絵本を読む際に自らの想像力で世界を広げるような体験をもたらします。ポターが描いた美しい田園風景や、動物たちの繰り広げる小さな冒険や日常のドラマが、身体の動きと音楽の旋律によって豊かに表現されます。

ロイヤル・バレエ団のダンサーたちの高度な技術は、それぞれの動物の特性を見事に捉えた振付によって生かされています。例えば、ピーターラビットのいたずら好きな素早さ、ジマイマ・パドルダックの優雅さなどが、バレエのステップを通して生き生きと描かれます。また、映画の美術や小道具も絵本の世界観を忠実に再現しており、作品全体が視覚的にも非常に魅力的です。

ロイヤル・バレエ団と作品の意義

この映画の製作は、英国ロイヤル・バレエ団にとって重要な転機となりました。映画版が成功を収めたことをきっかけに、『ピーターラビット』シリーズのバレエは、同団の舞台での定番演目として採用されることになります。子供から大人まで幅広い観客に親しまれる演目となった背景には、映画版で確立された、マスクと衣装による愛らしいキャラクター造形や、セリフに頼らない普遍的な物語表現が大きく貢献しています。

本作は、児童文学の映像化としてだけでなく、バレエという芸術形式の可能性を広げた作品としても評価できます。物語を言葉ではなく、純粋な身体表現と音楽だけで伝えるという試みは、芸術の根源的な力に光を当てるものです。それは、ビアトリクス・ポターの絵本が持つ視覚的な魅力と、動物たちの動きや表情が持つユニークさを、バレエの表現力によって最大限に引き出した結果と言えるでしょう。

まとめ

『ピーターラビットと仲間たち/ザ・バレエ』は、絵本、バレエ、映画という異なるジャンルが融合したユニークな作品です。言葉の壁を超えたバレエ表現によって、世代を超えて愛されるポターの世界観を、新たな形で多くの人々に届けました。その芸術的な試みと成功は、今なお多くの観客を魅了し、英国ロイヤル・バレエ団のレパートリーの中でも特別な位置を占めています。

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