ファイアー (U2の曲)

U2のセカンド・アルバム『October』に先駆けて発表されたシングル「ファイアー」（Fire）は、バンドにとって初期のキャリアにおいて重要な位置を占める楽曲です。1981年夏にリリースされたこの曲は、『October』の発売よりも約3週間前に世に出されました。

初のチャートイン

このシングルは、U2の楽曲として初めてイギリスのシングル・チャートにランクインするという歴史的な快挙を達成しました。これは、アイルランド国内での人気にとどまらず、バンドの認知度が国際的に広がり始めた初期の証と言えます。

楽曲の誕生と背景

実はこの「ファイアー」には、「Saturday Night」という別の原題が存在していました。この初期バージョンは、デビュー・アルバム『Boy』の初期プレス版に隠しトラックとして、最終曲「Shadows and Tall Trees」の後に収録されていたという興味深い経緯を持ちます。正式なシングルとしてリリースされるにあたり、「ファイアー」というタイトルに改められ、楽曲も再構成されました。レコーディングは、当時の『Boy』ツアー中に休暇で訪れたバハマ、ナッソーで行われました。南国のリラックスした雰囲気の中で制作された点も、この楽曲の背景として特筆すべきでしょう。

制作意図と評価

この楽曲は、当時のバンドがシングルヒットを意識して制作に臨んだものとされています。しかし、ギタリストであるエッジは、後にこの曲について「理想としていた形と実際に出来上がったものの間にギャップがあった」と振り返っています。必ずしもバンドの理想を完全に反映したものではなかったのかもしれませんが、商業的な成功を目指した初期の試みとして位置づけられます。

メディア出演と影響

「ファイアー」のリリースは、U2がイギリスの国民的音楽番組「Top of The Pops」に初出演を果たすきっかけとなりました。テレビを通じてU2の演奏が広く届けられたことは、バンドの知名度向上に大きく貢献しましたが、皮肉にも番組出演の翌週にはチャートの順位が下がってしまいました。しかし、このテレビ出演は予期せぬ副産物も生みました。当時この番組を偶然見ていた後のオアシスの中心人物、ノエル・ギャラガーは、U2のパフォーマンスに感銘を受け、熱心なファンになったと語っています。このように、「ファイアー」は音楽業界の後進にも影響を与える一曲となりました。

B面「J.Swallo」

シングルのB面には「J.Swallo」という楽曲が収録されました。この曲は元々、スタジオでの実験的なサウンド探求の中で生まれた音源でした。シングルのB面に収録することが決まった際に、急遽ヴォーカル・パートが加えられたという制作秘話があります。「J.Swallo」というタイトルは、リプトン・ヴィレッジというグループに所属していたミュージシャン、ジョニー・スワロウ（本名：レジー・マニュエル）の名前に由来しています。「J.Swallo」は、後にアルバム『October』のデラックス・エディションにもボーナス・トラックとして収録され、より多くのリスナーに聴かれる機会を得ました。

評価

「ファイアー」は商業的な成功だけでなく、批評的な評価も受けています。特にアイルランド本国では、1981年に地元音楽誌「ホットプレス」の読者投票によって選ばれた年間ベスト・アイリッシュ・シングルの第2位に輝きました。これは、この楽曲が初期のU2の代表曲として、アイルランドのリスナーに強く支持されていたことの証です。

まとめ

「ファイアー」は、U2が国際的なブレイクに向けて踏み出した最初の一歩を飾った歴史的なシングルです。初の全英チャート入り、Top of The Popsへの初出演、そして後の世代のミュージシャンへの影響など、多くのエピソードに彩られています。バンドがシングルヒットを模索し、試行錯誤していた初期の姿を映し出すと同時に、その後の輝かしいキャリアへと繋がる重要な節目となった楽曲と言えるでしょう。

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