ファニー・ジーフス＝コア

ファニー・ジーフス＝コア（Isabelle Marie Françoise (Fanny) Geefs-Corr）は、1807年5月2日にこの世に生を受け、1883年1月23日にその生涯を閉じた、ベルギーの著名な画家であり、版画の原画家としても活躍しました。

彼女はブリュッセルの地に生まれました。父はマシュー・コア、母はモニーク・ランディーといい、夫妻は1802年にアイルランドからベルギーの首都に移住し、高級靴店を経営していました。ファニーは芸術的な環境で育ちました。彼女には、後に優れた版画家となった兄のエリン・コア（Erin Corr）と、同じく画家として活動した姉妹のマルチド・コア（Mathilde Corr）がおり、兄弟姉妹揃って芸術の道に進んでいます。

ファニーの芸術教育は、ベルギー画壇の重鎮であったフランソワ＝ジョセフ・ナヴェス（François-Joseph Navez）の下で行われました。ナヴェスは、当時ブリュッセル王立美術アカデミーの校長を務めていた人物であり、その指導はファニーの芸術家としての基盤を築く上で非常に重要でした。

私生活では、1836年に著名な彫刻家であるギョーム・ジーフス（Guillaume (Wilhelm) Geefs、1805-1883）と結婚しました。ギョーム・ジーフスは、弟のヨゼフ・ジーフス（Jozef Geefs）やジャン・ジーフス（Jean Geefs）もまた彫刻家として名を馳せており、ファニーは芸術家一家の一員となりました。結婚後も彼女は制作活動を続け、夫との協力も見られました。例えば、夫が制作したベルギー国王レオポルド1世の彫像を基に絵を描き、それを兄のエリンが版画として発表するといった共同作業も行っています。

ファニー・ジーフス＝コアは、特に肖像画の分野で才能を発揮しました。ベルギー国王レオポルド1世の王妃であるルイーズ＝マリー・ドルレアンの肖像画は、彼女の代表作の一つとして広く知られています。王室からの依頼を受けることは、当時の画家にとって最高の栄誉の一つであり、彼女が高い評価を得ていたことを示しています。

彼女は国内外の主要な展覧会に積極的に作品を出品しました。パリやベルギーで開催された展覧会では、繰り返し入選を果たし、その実力が広く認められました。これらの成功は、彼女の画家としての名声を確固たるものにしました。

その業績が認められ、1845年にはブリュッセル王立美術アカデミーの名誉会員に選出されました。これは、彼女が当時のベルギーの美術界において、非常に重要な地位を占める存在であったことの証左と言えます。19世紀のベルギーにおいて、女性画家がアカデミーの名誉会員に選ばれることは稀であり、ファニー・ジーフス＝コアが成し遂げた功績の大きさを物語っています。

ファニー・ジーフス＝コアは、肖像画を中心に、歴史画など幅広い主題を手掛けた多才な画家でした。家族の芸術的背景、優れた師からの教育、著名な芸術家との結婚、そして王室からの依頼やアカデミーでの栄誉など、様々な要素が組み合わさって、彼女はベルギー美術史における重要な一頁を飾る存在となりました。その作品は、今日でもベルギーを中心に評価され続けています。

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