フィン物語群

フィン物語群（フィニアンサイクル）

フィン物語群、またはフィニアンサイクルは、アイルランド神話の重要な一部であり、英雄フィン・マックール（フィン・マク・クウィル）と彼の率いるフィアナ騎士団の冒険と功績を中心に描いた物語群です。吟遊詩人オイシンの名にちなんでオシアニック・サイクルとも呼ばれています。神話物語群、アルスター物語群、歴史物語群と共に、アイルランド神話の4つのサイクルを構成し、時系列順では3番目に位置します。

物語の概要

フィン物語群は、フィアナ騎士団の他の構成員、例えばカイルテ・マク・ローナーン、ディアルミド・ウア・ドゥヴネ、オシーンの息子オスカル、そしてフィンの宿敵であるゴル・マク・モルナなどの物語も包括しています。これらの物語は、散文と韻文の形で伝えられ、中世アイルランドの社会、文化、価値観を反映しています。

物語の成立は早くとも8世紀に遡りますが、当初は専門の詩人（フィリ）のレパートリーとは見なされず、主に民衆の間で口頭伝承されていました。11世紀頃から、物語の時代設定は3世紀頃の上王コルマク・マク・アルトとその息子カルブレ・リフェハルの治世下であるとされるようになります。

12世紀のノルマン人侵攻は、アイルランド文学に大きな影響を与えました。一部の研究者は、「フィン物語はノルマン人がもたらした新しい文化の産物である」とさえ指摘しています。侵略者たちの文化との融合が進む中で、12世紀末に成立した作者不明の傑作『古老たちの語らい』によって、フィンは英雄クーフーリンに匹敵する人気を獲得するに至りました。

主な作品とあらすじ

フィン物語群に属する中世の詩や散文文学は数多く存在します。以下に代表的な作品とその簡単なあらすじを紹介します。

『クヌハの戦いの理由』: クウィル率いるバスクナ氏族とゴル率いるモルナ氏族の間の戦いを描いています。
『フィンの少年時代の行い』: フィンがどのようにして英雄としての資質を身につけていったのかが語られます。
『フィントラーグの戦い』: フィンとフィアナ騎士団が異世界の勢力と戦う物語です。
『ディアルミドとグラーニャの追跡』: ディアルミドとグラーニャの悲恋を描いた物語で、フィンとの三角関係が物語の軸となります。
『ガウラの戦い』: フィアナ騎士団の没落を描いた悲劇的な物語です。
『古老たちの語らい』: 聖パトリックとフィアナ騎士団の生き残りであるカイルテやオイシンとの対話を通じて、過去の英雄たちの物語が語られます。

物語の展開

物語は、コルマク・マク・アルト王が王国の氏族を連合させ、国の守りのためにフィアナ騎士団を設立するところから始まります。騎士団内では、クウィル率いるバスクナ氏族、ゴル率いるモルナ氏族が勢力を争っていました。ノックの戦いでクウィルが殺され、バスクナ氏族の宝物袋が盗まれるという事件が起こります。クウィルの妻マーナは、息子デムナ（後のフィン）を産み、フィンは2人の女性によって育てられます。

フィンは成長するにつれて、その金髪から「フィン（白い、輝かしい）」と呼ばれるようになります。彼はゴールへの復讐を誓い、様々な試練を乗り越えていきます。ドルイド僧フィガネスに師事していた際、知恵の鮭を偶然食べることで特別な能力を得て、王から課された難題を解決し、バスクナ氏族の首領となります。

フィンはまた、ハロウィーンの起源となったサムハインの夜に、王都タラを襲うゴブリン、アイレン・マック・ミグナを倒します。さらに、ドルイド僧の魔法で鹿に変えられた女性サドブと恋に落ちますが、サドブは再び鹿の姿に戻り、フィンは彼女を探し続けることになります。その後、フィンは鹿に育てられた少年オイシンを見つけ、オイシンは吟遊詩人として名を馳せることになります。

ガウラの戦いでは、コルマク王の息子カルブレ・リフェハルがフィアナ騎士団への負担金を嫌い、騎士団を壊滅させようと企てます。戦いの結果、フィアナ騎士団は壊滅的な打撃を受け、オイシンやカイルテなどわずかな戦士が生き残るのみとなりました。

後世への影響

フィン物語群は、アイルランドの文化と文学に深い影響を与え続けています。18世紀後半からのケルト文化復興の動きの中で、フィンはスコットランドの詩人ジェイムズ・マクファーソンによって『フィンガル』として再紹介され、ヨーロッパ中に大きな影響を与えました。

近代においても、ウィリアム・カールトン、スタンディッシュ・オグレディ、ジェイムズ・ジョイスなど、多くの作家がフィンとフィアナ騎士団を題材とした作品を創作しています。これらの作品は、アイルランドのアイデンティティや歴史、そして普遍的な人間の感情を描き出し、現代の読者にも感動を与え続けています。

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