フイチンさん

『フイチンさん』：満州を舞台にした、時代を超える少女漫画

上田トシコ氏による漫画『フイチンさん』は、1957年1月から1962年3月まで少女漫画雑誌『少女クラブ』で連載されました。満州国ハルピンを舞台に、裕福なリュウタイ家のお屋敷で暮らす人々の生活と、門番の娘フイチンと、その屋敷の御曹司リイチュウの交流を描いた作品です。

独自の視点と画風

『フイチンさん』は、単なる少女漫画の枠を超えた、独特の魅力を持っています。まず、その画風は、多くの漫画ファンや批評家から高い評価を受けています。奈良美智氏は、原稿を初めて見た際に「ロダンの彫刻のような線」と評し、その美術的な素晴らしさを強調しました。また、同氏は、手塚治虫や石ノ森章太郎といった他の漫画家がアメリカ文化の影響を受けていたのに対し、『フイチンさん』は「偏見を持つ前の子供の世界」であり、グローバリズム的な感性が感じられると指摘しています。

四方田犬彦氏は、本作が日本人の作者による作品でありながら、日本人の視点にとらわれず、普遍的な人間関係や子供たちの世界を描き出している点を評価しています。「フイチン」という名前についても、「恵珍」ではないかという推測を述べています。一方、村上もとか氏は自身の作品『フイチン再見！』で「彗星」を意味する中国語の発音ではないかと示唆しています。

ストーリーとキャラクター

物語は、リュウタイ家のお屋敷の門番の娘であるフイチンが、屋敷の主人ジャングイに見込まれ、彼の息子リイチュウの遊び相手となることから始まります。おてんばで明るいフイチンと、最初はツンケンとしていたリイチュウは、次第に友情を育み、共に成長していきます。

物語には、フイチンとリイチュウの他に、リュウタイ家の家族や使用人、フイチンの友人など、個性豊かなキャラクターが登場します。それぞれのキャラクターが、物語に奥行きを与え、読者に深い印象を与えます。リイチュウは、物語の中で、わがままな子供から、フイチンとの交流を通してたくましく成長していく様が見られます。

出版とアニメ映画

『フイチンさん』は、講談社、アース出版局、小学館などから単行本が出版されました。長らく絶版となっていましたが、2009年にコミックパークで復刊、2015年には小学館から復刻愛蔵版が刊行され、現在も多くの読者に親しまれています。

2004年には、あにまる屋製作によってアニメ映画が公開され、DVDとVHSでも発売されました。アニメ映画は、原作の雰囲気を損なわず、子供にも分かりやすい表現で制作されています。

まとめ

『フイチンさん』は、時代を超えて愛される名作漫画です。独特の画風、普遍的なテーマ、魅力的なキャラクター、そして時代背景など、多くの要素が絡み合い、読者に深い感動を与えます。満州という異国情緒あふれる舞台、個性豊かな登場人物、そして時代を超越した普遍的なテーマは、現代の読者にとっても新鮮で魅力的な作品となっています。その芸術的な価値、そして普遍的なテーマは、これからも多くの人々に感動を与え続けることでしょう。

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