フェイシング・ジ・アニマル

フェイシング・ジ・アニマル

イングヴェイ・マルムスティーンの通算10作目となるスタジオ・アルバム、『フェイシング・ジ・アニマル』は、1997年に発表されました。前作『インスピレーション』から約1年という短いインターバルで届けられた本作は、当時のイングヴェイの創造力が円熟期にあったことを示す作品といえるでしょう。

制作背景と参加メンバー

このアルバムは、新たな才能であるヴォーカリストのマッツ・レヴィン、そしてロック界の伝説的なドラマー、コージー・パウエルを迎えて制作されました。コージーの参加は、そのパワフルかつ精緻なドラミングがイングヴェイのネオクラシカルなスタイルに新たな息吹を吹き込むものとして、リリース前から大きな注目を集めたのです。参加メンバーは以下の通りです。

イングヴェイ・マルムスティーン: ギター、ヴォーカル、ベース（# 1,4,6,12,14）
マッツ・オラウソン: キーボード
マッツ・レヴィン: ヴォーカル
バリー・ダナウェイ: ベース（# 2,3,5,6,7,8,9,10,11）
* コージー・パウエル: ドラム

イングヴェイ自身がギタープレイに加えて一部のベースも担当し、残りをバリー・ダナウェイが務めるという構成も興味深い点です。マッツ・オラウソンの巧みなキーボードワークも、イングヴェイのギターと見事に調和し、本作のサウンドを特徴づけています。

アルバムへの評価と楽曲の魅力

日本盤のジャケット帯には、「「王者」の風格・・・。コンポーザとして、そしてギタリストとして、イングヴェイがその才能を余すところなく発揮した、まさに「最高傑作」!」という熱い言葉が添えられており、当時の日本の音楽シーンにおける本作への期待の高さがうかがえます。イングヴェイ自身も作曲家、ギタリスト双方の才能を遺憾なく発揮した意欲作として、このアルバムは彼のディスコグラフィーの中でも重要な位置を占めています。

本作には、クラシック音楽からの影響を直接的に取り入れた楽曲も含まれています。例えば、13曲目に収録された「Air On A Theme」は、バロック時代の作曲家アントニオ・ヴィヴァルディによる「ピッコロ協奏曲ハ長調 RV443 第2楽章」を原曲としており、イングヴェイのギターがヴィヴァルディの美しい旋律を独自の解釈で奏でています。また、この「Air On A Theme」にはバージョン違いが存在し、一部の米国盤では、かつて発表されたライブ作品『ライヴ・アット・武道館』に収録された「Black Star」の冒頭のアコースティックギター演奏が収録されており、収録時間も4分31秒となっています。

さらに、日本盤のみにボーナストラックとして収録された「Casting Pearls Before The Swine」は、イングヴェイ自身が当時の前夫人アンバーに対する怒りをテーマにしたという、非常にパーソナルな感情が込められた楽曲です。このように、クラシックの影響から個人的な感情の吐露まで、幅広いテーマやスタイルが楽曲に反映されているのが本作の特徴の一つと言えるでしょう。

コージー・パウエルの悲劇

本作におけるコージー・パウエルの参加は、彼の輝かしいキャリアにおける最後のスタジオ録音の一つとなりました。しかし、アルバムリリース後の悲劇的な出来事が、この作品に深い影を落とすこととなります。コージーはバイク事故により右足を全治8週間の重傷を負い、本作に伴う1998年4月5日から24日にかけて予定されていたイングヴェイの来日公演に参加することができなくなってしまったのです。そして、その来日公演が始まるまさにその日、1998年4月5日、コージーは交通事故により帰らぬ人となりました。この突然の訃報は、世界中のロックファン、そして共演したミュージシャンに大きな衝撃を与えました。彼はこのアルバムで最高のドラミングを提供しており、その力強くも繊細な演奏が彼の遺作の一つとなった事実は、本作を聴く上で避けて通れない重い意味合いを持つことになります。このアルバムは、偉大なドラマー、コージー・パウエルが生涯最後に刻んだ力強いリズムの一つが収められている作品としても、永遠に記憶されていくでしょう。

関連作品

本作に関連するライブ映像や作品としては、Braveheart, Facing The Animal, Like An Angel - For April, My Resurrection, Alone In Paradise といったタイトルが挙げられています。これらは本作収録楽曲のライブパフォーマンスやビデオクリップに関連するものと考えられます。

まとめ

『フェイシング・ジ・アニマル』は、イングヴェイ・マルムスティーンの円熟期における傑作として評価される一方で、伝説的ドラマー、コージー・パウエルの悲劇的な死とも深く結びついた作品です。イングヴェイの卓越したギタープレイと作曲能力、マッツ・レヴィンの力強いヴォーカル、そしてコージーの圧倒的なドラミングが一体となったサウンドは、彼のディスコグラフィーの中でも特別な輝きを放っています。このアルバムは、テクニックとメロディが融合したネオクラシカルメタルの極致を示すとともに、一人の偉大なミュージシャンの最後の息吹が刻まれた歴史的な記録として、今もなお多くのリスナーに聴き継がれています。

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