フェデリコ・カプリッリ

フェデリコ・カプリッリ：近代馬術の先駆者

フェデリコ・カプリッリ（1868年4月8日 - 1907年12月6日）は、イタリアの騎兵将校であり、馬術家です。「近代馬術の元祖」と称される彼は、19世紀末の軍隊馬術に大きな変革をもたらしました。彼の考案した「自然馬術」は、馬の自然な動きを尊重し、人馬一体となった騎乗を可能にするものでした。

生い立ちと軍歴

カプリッリは1868年、リヴォルノ県で生まれました。1881年にフィレンツェ陸軍幼年学校に入隊、1886年にはモデナの陸軍士官学校騎兵科へ進学しました。183cmの長身でしたが、胴長であったため、当初は騎兵には不向きと評されていました。その後、ピネロロ騎兵学校に進みましたが、馬術の腕は平凡で、体操と剣術に秀でていました。1892年、トル・ディ・クィント分校の野外騎乗課程に進み、翌年のローマ馬術大会で140cmの障害飛越で優勝を果たし、その才能を開花させました。

自然馬術の提唱

カプリッリが提唱した馬術は、「カプリッリ方式」または「イタリア方式」として知られ、馬の自然な動きを尊重する「自然馬術」の基礎となりました。当時の騎兵隊では、馬場馬術が主流でしたが、これは王侯貴族が宮廷で披露するためのもので、馬に不自然な体勢を強いるものでした。しかし、騎兵の活動が高速化し、山野を駆け巡ることが多くなると、馬場馬術では人馬ともに疲労が大きくなるため、新たな騎乗法が求められていました。

カプリッリは、馬場馬術特有の馬の収縮や屈撓姿勢を廃止し、大勒を使わず、水勒を基本としました。彼は、馬の自然な運動態勢を尊重し、それに合わせた騎乗法を考案しました。速歩や駈歩では、前方騎座（ツーポイント）を採用し、馬の腰への負担を軽減しました。この騎乗法は、新兵の教育にも適しており、広く普及しました。

また、カプリッリは、装鞍した馬を自由に走らせたり、自由に飛越させたりすることで、馬の動きや心理を観察・研究しました。彼は、調教において以下の点を重視しました。

馬を馴らす際には、無理に近づけず、徐々に慣らす。
障害飛越の訓練は、馬が落ち着いた状態で行う。
踏み切りは馬に任せ、干渉しない。
簡単な障害を数多く飛ばせ、馬に自信をつけさせる。
* 駈歩の発進など、簡単な様式から始める。

障害飛越において、カプリッリは上体を前傾し、手綱を伸ばすことで、馬が楽に飛越できることを発見しました。この方法を確立するまでに、彼は約400回も落馬し、大怪我を負うこともありましたが、彼の努力は、世界中の馬を苦痛から解放し、騎手のスムーズな飛越を可能にしました。

晩年と死

1894年、カプリッリはトル・ディ・クィントの教官に任命され、1896年から自身の考案した馬術を教え始めました。1898年には、ハイジャンプ競技で160cm、1901年には185cm、1902年には208cmの飛越に成功し、幅跳びでも650cmを記録しました。1904年にはピネロロ騎兵学校の教官となり、フランスのソーミュール騎兵学校でも彼の新しい騎乗法を公開しました。

イタリア陸軍当局も彼の功績を認め始めましたが、1907年12月6日、トリノで騎乗中に落馬し、頭部を強打して亡くなりました。享年39歳でした。

イタリア馬術界への貢献

カプリッリの自然馬術は、1920年代から1930年代にかけてイタリアが国際競技で圧倒的な強さを誇る原動力となりました。イタリア代表チームは、ローマ、ニース、ブリュッセルなど八大国際馬術競技で優勝を重ね、その勝利は34試合中32回にも及びました。また、個人競技でも多くのイタリア人選手が国際舞台で活躍し、総計202回の勝利を収めました。

当時のドイツ代表選手であったギョルツ伯爵も、カプリッリの馬術を「人々をして愕然たらしめた」と賞賛し、「イタリア選手は実に世界第一にして、かつ最も勇敢なる騎手である」と評しました。

カプリッリの功績は、単に競技成績だけにとどまりません。彼の提唱した自然馬術は、馬への負担を軽減し、馬の能力を最大限に引き出すことを可能にしました。彼の革新的な理論と技術は、今日の馬術界にも大きな影響を与え続けています。

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