フォルクスワーゲン・ベルリンローマ速度記録車

第二次世界大戦前夜、ナチス・ドイツは国家の威信を示すため、様々な分野で技術力の高さを世界に示そうとしていました。その象徴の一つとして、ポルシェは1938年、ベルリン―ローマ・ラリー参戦を目指したレーシングカーを開発しました。これが「ベルリンローマ速度記録車」です。

この車は、ポルシェの社内記録ではタイプナンバー60K10または64とされ、タイプ64と呼ばれることもあります。後のフォルクスワーゲン・タイプ1（ビートル）の試作車であるKdFヴァーゲンをベースに開発された、画期的なマシンでした。

最大の特徴は、空力性能を重視した流線型のボディです。当時のレーシングカーのデザイントレンドを先取りした、非常に美しいフォルムを持っていました。ボディは軽量化も考慮され、高い速度性能を実現するための工夫が凝らされていました。搭載されたエンジンは、1,131ccの排気量で40馬力を発生。1人乗りというシンプルな構成も、軽量化と速度性能の向上に貢献していました。

テスト走行では、140km/hという当時としては驚異的な最高速度を記録しました。これは、高度な空力設計とパワフルなエンジンの組み合わせによる成果と言えるでしょう。ベルリン―ローマ・ラリーでの活躍が期待されたものの、1939年に第二次世界大戦が勃発。ラリーは中止となり、この車は日の目を見ることなく、その性能を存分に発揮する機会を失ってしまいました。

なお、ベルリンローマ速度記録車は、合計3台が製造されたとされています。しかし、そのうちの1台は戦争中の空襲によって破壊され、現存するのは2台のみです。これは、貴重な歴史的遺産として、現在も大切に保管され、時折、博物館などで公開される機会もあります。これらの現存車は、当時のドイツの技術力と、戦争によって失われた可能性を象徴する存在として、人々の関心を集めています。

ベルリンローマ速度記録車は、単なるレーシングカーではなく、国家の威信と技術力の象徴として誕生しました。しかし、戦争によってその活躍の場は奪われ、その存在は歴史の影に埋もれてしまうことになりました。この車は、戦争の悲劇と、失われた可能性を私たちに想起させる、重要な歴史的遺産と言えるでしょう。

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