フォルモスス (ローマ教皇)

フォルモスス（Formosus, 816年頃? - 896年4月4日）は、9世紀に活躍したローマ教皇（在位：891年 - 896年）です。彼の生涯は、当時のヨーロッパにおける政治的・宗教的な複雑な状況を反映しており、その死後には異例の「死体裁判」が執り行われたことで知られています。

初期の活動とブルガリアへの派遣

フォルモススは、864年に教皇ニコラウス1世によってポルトガルのポルト司教に任命され、枢機卿となりました。866年には、教皇特使としてビザンツ帝国の影響下にあったブルガリアに派遣されました。当時、ブルガリアは正教会からの独立を望んでおり、フォルモススは熱心な布教活動を通じてブルガリア人のキリスト教への改宗を推進しました。ブルガリア王ボリス1世は、彼をブルガリア教会の長にしたいと考えましたが、ニコラウス1世やハドリアヌス2世によって反対され、フォルモススはローマに召還されることになります。この結果、ブルガリアはギリシャ正教を採用し、後にブルガリア正教会が設立されることになりました。

教皇としての選出と政治的圧力

875年のクリスマスには、フォルモススはローマで西フランク王シャルル2世をローマ皇帝として戴冠させました。しかし、この行為は時の教皇ヨハネス8世の反発を招き、翌876年に破門されてしまいます。その後、883年に教皇マリヌス1世によって赦免され、ポルト司教に復帰しました。891年には、ステファヌス5世の死後、フォルモススは教皇に選出されました。

教皇に就任すると、フォルモススはスポレート公グイード・ダ・スポレートとその息子ランベルト・ダ・スポレートの圧力に苦しむことになります。892年には、グイードの強要によってランベルトを共同皇帝として戴冠させられました。しかし、グイードの圧力に耐えかねたフォルモススは、翌893年に東フランク王アルヌルフに助けを求めました。アルヌルフはこれに応じ、894年にイタリアへ遠征し、グイードは同年に亡くなりました。896年2月には、アルヌルフがローマに入城し、フォルモススは彼を皇帝として戴冠させました。ところが、アルヌルフは脳溢血で倒れ、イタリアを去ることになります。

死後の「死体裁判」

フォルモススは、アルヌルフがイタリアを去った直後の896年4月に死去しました。彼の死後、ランベルトがローマの支配者となり、フォルモススの後を継いだボニファティウス6世が急死すると、ランベルトはステファヌス6世を教皇に擁立しました。ステファヌス6世は、ランベルトに焚きつけられ、フォルモススの墓を暴き、遺体を模擬裁判にかけるという前代未聞の行為を行いました。この「死体裁判」では、フォルモススの遺体は教皇の衣装を剥ぎ取られ、テヴェレ川に投げ込まれました。

この異常な出来事は、当時のローマ社会に大きな衝撃を与えました。民衆はステファヌス6世の行為に反発し、暴動を起こしました。ステファヌス6世は廃位され、殺害されました。その後、教皇ロマヌスが選出され、フォルモススの名誉回復が行われました。続く教皇テオドルス2世の時代には、テヴェレ川から遺体が引き揚げられ、バチカンに埋葬されました。さらに、教皇ヨハネス9世によって死体裁判の無効が宣言され、フォルモススの名誉は完全に回復されました。

フォルモススの生涯は、当時の教会の権力闘争と政治的混乱を象徴するものであり、その死後の「死体裁判」は、中世ヨーロッパの歴史における特異な出来事として記憶されています。

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