フォーカシング

フォーカシング：心の声に耳を澄ます心理療法

フォーカシングは、臨床心理学者のユージン・ジェンドリンによって開発された心理療法です。単なる心理療法という枠を超え、自己理解を深め、内なる声に耳を澄ませるための実践的な技法、そして、その基盤となる理論体系を包含しています。ジェンドリンは、カール・ロジャースの来談者中心療法の共同研究者として知られており、その実践経験からフォーカシングを体系化しました。

来談者中心療法との関係

フォーカシングと来談者中心療法の関係については、異なる見解が存在します。完全に独立した体系とみなす立場と、来談者中心療法の本質を捉えたものと捉える立場があり、両者の関係は未だに議論が続いています。しかし、いずれの立場も、クライエントの自己決定権を尊重し、内面からの成長を促すという点において共通しています。

体験過程理論：心の動きを理解する

フォーカシングの基盤となるのが「体験過程理論」です。この理論では、私たちの心は、意識と無意識の境界で絶えず変化し、流動する「体験過程」によって形成されると考えます。この体験過程は、身体感覚として捉えることができ、言葉によって表現（象徴化）することで、より明確になり、個人の成長へと繋がるのです。しかし、体験過程が言葉で表現されないまま滞ると、心理的な困難が生じる可能性があります。

フォーカシング：感覚に意識を向ける

「フォーカシング」という用語は、現象と技法の両方の意味で使われます。「現象としてのフォーカシング」は、言葉にならない感覚（フェルト・センス）に意識を向け、その感覚と共にある状態を指します。一方、「技法としてのフォーカシング」は、このフェルト・センスを言葉にすることで、体験過程を促進するための具体的な技法です。ジェンドリンが考案した「ショートフォーム」はその代表的な方法です。

ショートフォームの手順

1. 身体の奥に意識を向ける: 胸や腹のあたりに意識を向け、漠然とした感覚（フェルト・センス）を探ります。
2. フェルト・センスを言葉にする: 見つかった感覚にぴったり合う言葉を探し、その言葉が感覚と合致するかどうかを確認します。合致しない場合は、別の言葉を探します。
3. フェルト・シフト: フェルト・センスと言葉がぴったりと一致した時、「フェルト・シフト」と呼ばれる、解放感や安心感を伴う感覚が得られることがあります。
4. 質問: フェルト・センスに「何がそんなに～なのか」「それは生活の何に関係しているのか」など質問を投げかけ、新たな反応を待ちます。
5. 受け止め、統合: 得られた反応を丁寧に受け止め、セッションを終えます。

フォーカシングは一人で行うことも可能ですが、特に初心者には、リスナーやガイドと呼ばれる聞き役のサポートが役立ちます。リスナーは、フォーカサー（フォーカシングを行う人）の体験過程を静かに聴き、必要に応じて言葉選びを促す役割を担います。

フォーカシング指向心理療法：カウンセリングへの応用

フォーカシングは、カウンセリングの枠組みの中で、クライエントの自己治癒力を高めるために活用されます。フォーカシング指向心理療法では、カウンセラーとクライエントの体験過程を重視します。フォーカシングの技法を用いることもありますが、最も重要なのは、クライエントとの信頼関係、傾聴の姿勢、そしてクライエントの体験過程を尊重することです。

この療法では、必要に応じて他の心理療法の手法を取り入れることも可能です。ただし、常にクライエントの体験過程に寄り添い、クライエント自身が主導権を握れるよう配慮することが大切です。

まとめ

フォーカシングは、自己理解と心の成長を促進する、実践的で効果的な心理療法です。言葉にならない感覚に意識を向け、それを言葉にすることで、心の奥底にある問題に気づき、解決へと導きます。来談者中心療法の精神を受け継ぎながら、独自の理論と技法を駆使することで、クライエントの自己決定権を尊重し、内面からの成長を支援します。

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