フォーク・ソング・ベスト・ヒット

『フォーク・ソング・ベスト・ヒット』（Folk Song Best Hit）

アルバム概要

『フォーク・ソング・ベスト・ヒット』は、日本のポピュラー音楽グループである原田実とワゴン・エースによって制作された音楽アルバムです。この作品は1965年の2月に、日本のレコードレーベルである日本ビクターから世に送り出されました。1960年代中盤という時代は、世界中でフォークソングが大きな注目を集め、その音楽的な潮流が日本にも到来していた時期にあたります。本作は、まさにその音楽的な時代の空気感を反映しており、既に多くの人々に知られていたフォークの代表的な楽曲を集め、原田実とワゴン・エース独自のスタイルで再構築し演奏した作品集と言えます。

時代の背景と作品の性格

1960年代の世界的な音楽シーンにおいて、フォークソングは単なる音楽ジャンルを超え、社会的なメッセージや若者の思想を代弁する重要な役割を担っていました。特にアメリカでは、公民権運動や反戦運動と結びつき、ボブ・ディラン、ピート・シーガー、ジョーン・バエズといったアーティストが次々と登場し、彼らの音楽は世界中に影響を与えました。日本においても、この時期から海外のフォークソングが本格的に紹介され始め、若者たちの間で人気が高まっていきました。本作が発表された1965年は、まさにそのフォークソングの波が日本に押し寄せ始めた黎明期に位置します。アルバムタイトルに冠された「ベスト・ヒット」という言葉は、当時の日本のリスナーに向けて、人気の高い、あるいは入門として適したフォークソングを選りすぐって紹介しようという意図が込められていることを示唆しています。これは、海外の流行を取り入れ、日本のアーティストがカバーして紹介するという、当時の日本のポピュラー音楽界で一般的だった手法に沿ったものです。

収録楽曲

本アルバムは、当時の標準的な形態であるLPレコードとしてリリースされ、A面（Side 1）とB面（Side 2）にそれぞれ楽曲が収録されています。合計で14曲が収められており、収録された楽曲は、いずれも当時のフォークソングシーンにおいて、広く知られていた著名な楽曲ばかりです。これらの楽曲はオリジナルアーティストによる演奏だけでなく、世界中の様々なアーティストによってカバーされており、本作もそのカバーバージョンの一つとして位置づけられます。

Side 1には以下の7曲が収録されています。

花はどこへ行った
漕げよマイケル
夢みるバラの乙女
コットン・フィールズ
ワシントン広場の夜ふけて
500マイル
ジョンB号の難破

そして、Side 2には以下の7曲が収められています。

さらばジャマイカ
平和の誓い
君と僕の国
ウォーク・ライト・イン
なつかしのケンタッキー・ホーム
風に吹かれて
コロンブスかんごくのブルース

これらの楽曲リストを見ると、「花はどこへ行った (Where Have All the Flowers Gone?)」や「風に吹かれて (Blowin' in the Wind)」といった、時代を超えて歌い継がれるスタンダード曲が多く含まれていることがわかります。「風に吹かれて」はボブ・ディランの代表曲として特に有名であり、このアルバムを通じて日本の多くのリスナーがこの曲に触れる機会を得たと考えられます。

参加アーティスト

このアルバムの演奏を務めたのは、原田実とワゴン・エースというグループです。グループの中心人物である原田実は、スティール・ギターの名手として知られ、本作においてもその演奏と楽曲の編曲を担当しています。スティール・ギターは、一般的なフォークソングで多用されるアコースティックギターとは異なり、カントリー音楽やハワイアン音楽でよく用いられる楽器です。彼のスティール・ギターによるアレンジは、従来のフォークサウンドに独特の響きと色彩を加え、このアルバムの個性となっています。ボーカルは深野英明が担当しており、彼の歌声に乗せて、これらの海外フォークのメロディーやメッセージが日本のリスナーに届けられました。原田実の創意工夫された編曲と深野英明の歌唱が一体となることで、本作ならではのフォークソングの世界観が作り上げられています。

日本の音楽史における位置づけ

『フォーク・ソング・ベスト・ヒット』は、当時の日本の音楽シーンにおけるフォークソングの受容と普及の歴史を知る上で、貴重な資料としての価値を持っています。海外の著名なフォークソングを日本のアーティストがカバートラックとして紹介したことは、後の日本のフォークムーブメントの形成にも間接的な影響を与えた可能性があります。特に、原田実が自身の専門とするスティール・ギターを導入したアレンジは、当時の日本のフォークカバー作品としては珍しく、原田実とワゴン・エースというグループ独自の音楽的な試みであったと言えるでしょう。このアルバムは、1965年というフォークソング黎明期の日本の音楽シーンの雰囲気を伝える一枚であり、当時の人々がどのような形で海外の新しい音楽と出会っていたのかを知る手がかりとなります。本作の出典がライナーノーツであることから、当時のアルバムがどのように紹介され、どのような情報がリスナーに提供されていたかを知る上でも興味深い作品です。

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