フランソワ・ラリュエル

フランソワ・ラリュエル：非哲学の提唱者

フランソワ・ラリュエル (1937-2024) は、20世紀後半から21世紀にかけて活躍したフランスの哲学者です。国際哲学コレージュとパリ第10大学ナンテールで教鞭をとり、多岐にわたる著作を発表しました。彼の思想の中核をなすのは、従来の哲学を根本から問い直す「非哲学 (non-philosophy)」という概念です。

非哲学：哲学への超越論的アプローチ

ラリュエルは、あらゆる哲学が、世界を哲学的に把握するための前提となる「決定」を内包しているにも関わらず、その決定を自覚していないと指摘します。この「決定」とは、世界の弁証法的な分割、つまり世界を特定の観点から捉え、解釈するための枠組みを指します。ラリュエルは、哲学がこうした「決定」に盲目である限り、真に世界を理解することは不可能だと主張します。

そこでラリュエルは、「非哲学」という独自の哲学的アプローチを提唱しました。「非哲学」は、哲学それ自体を超越的に捉え、その構造や前提を解明しようとする試みです。既存の哲学体系（古代哲学から分析哲学、脱構築主義まで）を包括的に批判的に検討し、哲学の限界を明らかにすることで、新たな哲学の可能性を探求します。いわば、「哲学についての科学」と言えるでしょう。

ラリュエルの哲学的発展

ラリュエル自身の研究は、大きく5つの段階に分けられます。初期の段階では、ニーチェ、ハイデガー、ドゥルーズ、デリダといった哲学者たちの思想を批判的に検討しました。その後、哲学それ自体への超越論的なアプローチを深め、最終的に「非哲学」の概念を確立しました。

国際的な評価

ラリュエルの思想は、当初は限られた範囲で知られていましたが、近年は国際的な評価が高まっています。スコットランドの哲学者レイ・ブラシエは、10年以上前にラリュエルを「今日、ヨーロッパで活動している世に知られざる哲学者の中で最も重要な人物」と評しました。ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリも、彼の業績を高く評価していました。特に、ブラシエの貢献は大きく、彼の著作は英語圏におけるラリュエルの受容に大きく寄与しました。現在では、彼の著作はエディンバラ大学出版会、コンティニューム、パルグレイブ・マクミランなど多くの出版社から翻訳・出版されており、数十冊もの英訳書が刊行されています。

主要著作

ラリュエルは、多様なテーマを扱った膨大な著作を残しました。その中には、初期の著作である『現象と差異』（1971年）、『テキスト機械』（1976年）、『ニーチェ対ハイデガー』（1977年）など、彼の哲学的発展の軌跡をたどることができるものもあります。また、『非哲学の原理』（1996年）、『非哲学辞典』（1998年）、『未来のキリスト』（2002年）などの著作は、「非哲学」の概念を理解する上で重要な鍵となります。さらに、彼の論文も数多く英訳されており、『Pli: The Warwick Journal of Philosophy』などに掲載されています。

まとめ

フランソワ・ラリュエルは、従来の哲学の枠を超えた独自の哲学体系「非哲学」を確立した哲学者です。彼の思想は、哲学の根源的な問題に鋭く切り込み、現代哲学に新たな視点を提供しています。近年、その国際的な評価はますます高まっており、今後ますます注目される哲学者と言えるでしょう。彼の著作は、哲学を専門とする者だけでなく、現代社会のあり方について深く考えたいすべての人にとって、貴重な知見を与えてくれるでしょう。

もう一度検索