フランソワーズ変奏曲

フランソワーズ変奏曲（Françoise Variationen per pianoforte）

フランソワーズ変奏曲は、イタリアの作曲家フランコ・ドナトーニ（Franco Donatoni）によって、1983年から1996年にかけて作曲されたピアノ独奏のための大規模な変奏曲集です。彼の主要作品の一つとして位置づけられており、「主題を持たない変奏曲」というユニークな形式を追求した点で注目されます。

作品の概要と特徴

この作品は、演奏家にとって極めて高度な技術が要求される難曲として知られています。特に、複雑な音型に加え、ペダリングの使用が厳しく制限されていることが、その演奏上の困難さを増しています。ドナトーニ自身が探求した「主題なき変奏曲」という概念が具現化されており、伝統的な変奏曲形式における明確な主題の提示と展開とは異なるアプローチが取られています。

作曲の背景と経緯

作品の出発点となったのは、1983年に「イタリア現代ピアノアンソロジー」のために作曲された小品「A Françoise」です。この短い作品が、後に発展してこの変奏曲集の礎となりました。作曲当初は比較的短い期間での完成を目指していたようですが、次第に作曲過程自体が進行中の変化を伴う「ワーク・イン・プログレス」のような様相を呈するようになります。その途上、作品の一部である第22変奏から第28変奏は、イタリア国内のピアノコンクールの課題曲として指定されました。一度はそこで作品が完結し、その後の作曲予定はないとアナウンスされましたが、ドナトーニは長年にわたりパートナーであったマリア・イザベラ・デ・カルリに捧げる形で続編を作曲しました。最終的に作品は第49変奏まで拡大され、最初の着手から足掛け13年という歳月を経て、1996年にようやく完成に至りました。

音楽語法と構造

作品の形式的な特徴として、7つの変奏ごとに複縦線によって明確に区切られている点が挙げられます。作品の音楽的な基盤となっているのは、「Françoise」という名前の綴りから着想を得たとされる特定の音高構造です。具体的には、「F-A-C-E」という3度堆積による音高が得られ、これを反転させた音高構造と組み合わせた和音が、作品全体の音楽的変容の出発点となっています。各変奏は、それぞれ独自の、ほぼ単一の音楽的アイデアに基づいて構成されており、ドナトーニ自身はこの作曲手法を「パネル技法」と名付けました。また、全曲の楽譜が見開きわずか2ページに収まっているという、視覚的にも極めてコンパクトな形式も特筆に値します。

出版と評価

本作はリコルディ社から出版されました。同社としては初めてのコンピュータ印字印刷による楽譜として宣伝されましたが、残念ながらその初版には100を超える誤植が含まれていたという問題も指摘されています。

演奏と録音

フランソワーズ変奏曲は演奏頻度が高い作品ではありませんが、いくつかの重要な演奏と録音が存在します。主要な録音としては、ストラディバリウス・レーベルからリリースされたマリア・グラツィア・ベロッキォ（Maria Grazia Bellocchio）による全曲盤が挙げられます。世界初演は作品が献呈されたマリア・イザベラ・デ・カルリ自身によって行われましたが、彼女による全曲の商業録音は現在まで実現していません。2006年にはベロッキォによる全曲演奏が注目を集め、その後のライブ演奏もインターネット上で公開されています。アメリカ在住のピアニスト、ジェイド・コンリー（Jade Conley）も2013年に抜粋を演奏しました。男性ピアニストとしては、ジェフリー・スワン（Jeffrey Swann）がミラノ・スカラ座で全曲を演奏し、好評を博したことが記録されています。

この作品は、ドナトーニ後期の創作における重要な到達点であり、現代ピアノ音楽における変奏曲の可能性を拡張した作品として位置づけられています。

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