フランツ・パッヒャー

フランツ・パッヒャー：現代トンネル工法の先駆者

フランツ・パッヒャー（Franz Pacher, 1919年4月28日 - 2018年3月3日）は、オーストリアの土木技術者であり、現代のトンネル掘削技術の発展に多大な貢献をしました。特に、新オーストリアトンネル工法（NATM）の開発者の一人として知られています。

生い立ちと学歴

パッヒャーは、現在のチェコ共和国にあたるプロストジェドニ・スチャーで生まれました。グラーツ高等学校を卒業後、グラーツ工科大学で土木工学を学び、1943年に卒業しました。彼の学問的背景は、後の革新的な業績の基礎となりました。

経歴

初期のキャリアと岩盤力学との出会い

1945年までグラーツ工科大学に残り、水工土木学の研究助手として勤務しました。その後、1946年から1952年まで、発電所の建設現場で設計技術者および現場管理者として働きました。この期間に、パッヒャーは岩盤力学とトンネル工事に初めて触れ、その後のキャリアを決定づける経験を積みました。

レオポルド・ミュラーとの協働

1952年、パッヒャーは地盤工学・トンネル建設技術事務所を率いるレオポルド・ミュラーのもとに就職しました。1957年にはミュラーの共同経営者となり、1966年には事務所の単独経営者となりました。ミュラーとの協働は、岩盤工学の発展に大きく貢献し、1960年代半ばには近代的なトンネル工事の時代の到来を告げることになりました。

トンネル設計・建設への貢献

パッヒャーは、ドイツで初めて吹付けコンクリートの原理で建設されたトンネルである、ヴァイブリンゲン - シュヴェービッシュ・ハル - ヘッセンタール鉄道線のシュヴァイクハイムトンネル建設に携わりました。また、ミュンヘンやウィーンの地下鉄の計画にも関与し、建設時にはコンサルタントを務めました。1968年から1975年にかけては、ザルツブルク州のタウエルン道路トンネルとその近くのカッチベルクトンネルの工事を担当しました。さらに、1981年から1985年まで、ハノーファーとヴュルツブルクを結ぶドイツ国鉄の新路線建設でトンネル工事を担当し、ラントリュッケントンネルを建設しました。その他、ヒルツマンシュペレ発電所、デュラッハダムなどの建設にも携わりました。

理論面での貢献：Pacher-Fenner曲線

パッヒャーの学問的理論的功績は、基礎研究の分野で特に顕著です。不連続面の平面的・体積的割合や地盤反力曲線の定義などが挙げられます。1964年の出版物では、初めて地圧とトンネル支保工の荷重の相互作用を予測し、グラフ化する方法（Pacher-Fenner曲線）を示しました。この曲線は、変形の測定に基づいており、収束拘束法の開発につながりました。2009年には、地圧と変形の時間依存性を示す図を作成し、Pacher-Fenner曲線を拡張しました。

教育活動

1966年から1987年まで、ミュンヘン工科大学で岩盤力学についての講義を行い、1979年から1983年まで、ウィーン工科大学で応用岩盤力学の講師を務めました。彼の教育活動は、次世代のトンネル技術者を育成する上で重要な役割を果たしました。

その他の専門的活動

1975年から1987年まで、交通・道路研究協会のトンネル工事作業委員会の委員長を務め、多くの講演を行い、専門誌に多数の論文を発表しました。

公的委員会での活動

パッヒャーは、数多くの公的委員会で委員を務めました。1969年から1999年まで、オーストリア連邦農林環境水管理省のダム監視小委員会の委員を務め、1966年から1988年まで、同省の貯水池委員会にて岩盤力学の専門委員を務めました。また、1984年以降は、オーストリア連邦経済省の道路研究諮問委員会の委員を務めました。さらに、1962年には国際岩の力学会（ISRM）、1968年にはオーストリア地盤力学会の創設メンバーとして組織を立ち上げ、1975年から1981年まで、後者の組織の会長を務めました。

受賞・栄典

パッヒャーは、その業績を称えられ、数々の賞と栄典を授与されました。1975年には、カールスルーエ工科大学土木工学および測量学部から名誉博士号を授与されました。1977年には、ミュンヘン工科大学の土木工学および測量学科の名誉教授に任命され、1979年には、「Baurätin honoris causa」の称号を授与されました。1994年には、ザルツブルク州名誉黄金勲章を受賞しました。

フランツ・パッヒャーは、その生涯を通じて、トンネル工学の発展に大きく貢献しました。彼の革新的な技術と理論は、今日のトンネル建設業界においても重要な基盤となっています。

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