フリードリヒ・アウグスト・ヴォルフ

フリードリヒ・アウグスト・ヴォルフ：文献学の巨星、ホメロス問題に挑む

フリードリヒ・アウグスト・ヴォルフ（1759年2月15日 - 1824年8月8日）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて活躍したドイツの文献学者・批評家であり、古典古代研究に革新をもたらした人物として知られています。特に、ホメロス問題に関する彼の研究は、文献学の分野に大きな影響を与えました。

生い立ちと教育

ヴォルフは、ハノーファー近郊のハインローデで、村の校長兼オルガニストの息子として生まれました。幼少期から才能を発揮し、ノルトハウゼンのギムナジウムでラテン語と古典ギリシア語を習得。さらに、フランス語、イタリア語、スペイン語などの語学や音楽にも親しみました。

1777年、18歳でゲッティンゲン大学に入学。当時、クリスティアン・ゴットロープ・ハイネが大学の指導的立場にありましたが、ヴォルフはハイネとの間に良好な関係を築けませんでした。ハイネはヴォルフを講義から締め出し、彼のホメロスに関する見解を否定しましたが、ヴォルフは大学図書館で貪欲に本を読み、研究に没頭しました。イルフェルトやオステローデで教鞭をとった後、プラトンの『饗宴』の校訂版を出版し、注目を集め、プロイセン国立ハレ大学の教員となりました。

ハレ大学時代：文献学の定義とホメロス問題

1783年から1807年まで、ヴォルフはハレ大学で教鞭をとりました。彼は古典古代の様々な側面に関する論争に積極的に参加し、文献学を「古代に示されたものとしての人間本性についての学」と定義しました。1789年には『デモステネスのレプティネス弁論注解』を、1795年には代表作『ホメロスへの序論』を刊行しました。

『ホメロスへの序論』は、ホメロス問題に新たな光を当て、大きな反響を呼びました。ヴォルフは、ホメロスの叙事詩が単一の作者によって書かれたものではなく、口承文学の集積である可能性を示唆しました。この斬新な見解は、当時の学界に大きな衝撃を与え、論争を巻き起こしました。ハイネはヴォルフの学説を「ゲッティンゲン大学で聞いたことの焼き直しだ」と批判しましたが、ヴォルフの研究は、その後のホメロス研究に大きな影響を与えました。

晩年：ベルリンでの苦難と死

フランス軍のハレ侵攻により、ヴォルフはハレを離れ、ベルリンに移り住みました。ベルリンでの生活はヴォルフにとって苦難の連続であり、友人たちを疎遠にするほど不寛容な人物になったとされています。ヴィルヘルム・フォン・フンボルトの尽力で教育関係の職を得ましたが、再び教職に戻りました。しかし、過去のようには教えることができず、著作もほとんど残せませんでした。ヴォルフの主要な著作である『古代学の叙述』はベルリンで出版されましたが、内容はハレ時代のものでした。

健康を害したヴォルフは、南フランスでの療養を勧められ、マルセイユに赴きましたが、病状は回復せず、1824年に客死しました。

ヴォルフの遺産

フリードリヒ・アウグスト・ヴォルフは、文献学の分野に革命をもたらした先駆者として、後世に大きな影響を与えました。彼のホメロス問題に関する研究は、古典研究における歴史的・批判的アプローチの重要性を示し、近代文献学の発展に貢献しました。彼の学問的遺産は、今日でも古典研究に携わる人々にインスピレーションを与え続けています。

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