フリードリヒ・マクシミリアン・クリンガー

フリードリヒ・マクシミリアン・フォン・クリンガー（1752年2月17日 - 1835年2月25日）は、ドイツ文学史において重要な位置を占める作家です。彼は、激動の時代を生きた人物であり、その作品は、当時の社会情勢や人々の感情を色濃く反映しています。クリンガーは、ゲーテらと共にシュトゥルム・ウント・ドラング運動の中心人物として活動し、文学界に大きな影響を与えました。しかし、経済的な困難から若くしてロシアに渡り、軍人としてのキャリアを築きながら、作家活動を継続するという特異な人生を歩みました。

生涯

フランクフルトで生まれたクリンガーは、幼少期に父を亡くし、母の手で育てられました。奨学金を得てギムナジウムに通い、1772年にはゲーテを中心とした若い作家たちのグループに参加しました。このグループには、ヤーコプ・ミヒャエル・ラインホルト・レンツやハインリヒ・レオポルト・ヴァーグナーなどがいました。1774年からは、ゲーテの援助を受けながらギーセンで法学を学びました。

1775年に処女作『オットー』を発表し、翌1776年には出世作となる『双生児』を執筆しました。しかし、『双生児』は兄弟間の嫉妬と殺人を描いた内容が問題視され、ヨーゼフ2世によって上演禁止となってしまいます。劇作家として成功を収めたクリンガーは、1776年に大学を辞め、アベル・ザイラー一座の座付き劇作家となりました。しかし、経済的に恵まれなかったため、ゲーテの義兄弟であるヨハン・ゲオルク・シュロッサーの助けを借りてバイエルンの軍隊に応募し、王位継承戦争に参加することになります。

1780年、再びシュロッサーの協力で、ロシア皇太子パーヴェル・ペトロヴィッチの海軍将校となります。同時に、皇太子妃マリア・フョードロヴナの朗読者としても雇用されました。1781年から82年にかけては、パーヴェル1世と共にヨーロッパ各地を旅行しました。1785年からは士官学校で教育者としてのキャリアをスタートさせ、1787年には貴族の女性エリザヴェータ・アレクセーエヴナと結婚しました。その後、1801年には少将、1811年には中将にまで昇進しました。

ロシアに渡ってからも、クリンガーは旺盛な創作意欲を持ち続け、風刺小説『プリンプランプラスコ』（1780年）や、ファウスト伝説を小説化した『ファウストの生涯、行いと地獄行き』（1791年）など、数々の作品を発表しました。彼は、1816年に退役し、1835年に79歳でエストニアで亡くなりました。彼の遺体は、サンクト・ペテルブルクの墓地に埋葬されました。

文学活動

クリンガーは、シュトゥルム・ウント・ドラング運動の代表的な作家として知られています。この文学運動は、理性を重視する啓蒙主義に対抗し、感情や個人の自由を尊重するものでした。クリンガーの作品は、登場人物の激しい感情や行動を通して、人間の内面にある葛藤や欲望を描き出しています。

代表作である『双生児』は、兄弟間の嫉妬と殺人を描いた衝撃的な内容で、当時の社会に大きな衝撃を与えました。また、『シュトルム・ウント・ドランク』は、この文学運動の名前の由来となった作品としても知られています。これらの作品を通して、クリンガーは、人間の情熱や衝動を大胆に表現しました。

ロシアに渡ってからは、風刺小説やファウスト伝説を題材にした作品など、新たなジャンルにも挑戦しています。彼の作品は、当時の社会や人間の姿を鋭く捉え、今日においても多くの読者に影響を与えています。

クリンガーの生涯は、文学、軍事、教育という多岐にわたる分野で活躍した、非常にユニークなものでした。彼の作品は、当時の社会や人間の感情を鮮やかに描き出し、後世の文学に大きな影響を与えました。

参考資料

* 柴田翔編 『はじめて学ぶドイツ文学史』 ミネルヴァ書房、2003年

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