フリー・アズ・ア・バード

フリー・アズ・ア・バード：ビートルズの未発表曲とその複雑な誕生秘話

1995年、世界中を驚かせた楽曲がリリースされました。「フリー・アズ・ア・バード」です。これは、1980年に悲劇的な最期を遂げたジョン・レノンが生前に残した未完成の楽曲を、残されたポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの3人が、新たな息吹を吹き込み完成させた作品でした。ビートルズとしては実に25年ぶりの新曲となり、『ザ・[[ビートルズ・アンソロジー]]1』に収録され、シングルカットもされました。イギリスではチャート2位、アメリカでも6位を記録するなど、大きな成功を収めました。さらに、この楽曲はビートルズ初のメンバーセルフプロデュース作品という点でも歴史的意義を持ちます。

ジョン・レノンからの贈り物と再結成への葛藤

1994年、アンソロジー企画が進行する中、3人は新たなレコーディングを計画しました。当時、ジョンの息子であるジュリアン・レノンとショーン・レノンが音楽活動を始めていたこともあり、レノンの代役を立てて再結成するという案も浮上したといいます。しかし、最終的には「ジョンがいてこそのビートルズ」という考えから、この案は実現しませんでした。

転機となったのは、マッカートニーがオノ・ヨーコにレノンの未発表曲の有無を尋ねたことでした。ヨーコは、レノンが1977年頃に自宅で録音したデモテープを提供します。その中には「フリー・アズ・ア・バード」を含む4曲が収録されていました。マッカートニーは、ヨーコとショーンの承諾を得て、この楽曲の制作に取り組み始めました。その際、マッカートニーは完成度に不満があればリリースを拒否できるという条件を提示し、ヨーコ側もそれを受け入れています。

困難なレコーディング：モノラル音源からのボーカル抽出

レコーディングには、大きな困難が待ち受けていました。レノンのデモテープは、自宅スタジオで録音されたモノラルのカセットテープで、ピアノとボーカルが同時に収録されており、雑音も多く含まれていました。そのため、ボーカルだけを抽出することが非常に難しい状況でした。長年のビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンは聴覚の衰えを理由にレコーディングへの参加を断念。代わりにジョージ・ハリスンが推薦したジェフ・リンがプロデューサーに就任することになりました。

リンの卓越した技術によって、レノンのボーカルは巧みに抽出されました。マッカートニーがレノンの声に重なるように歌を録音することで、ボーカルの分離を容易にしたのです。さらに、サビの歌詞と後半部の間奏は、マッカートニーとハリスンによって新たに書き下ろされ、コードやアレンジも変更されました。ハリスンはスライドギターで楽曲に深みを加えています。

感傷と創造の狭間：1980年の事件

レコーディング中には、1980年のレノンの死を想起せざるを得ない場面もあったといいます。しかし、メンバーは感情に流されることなく、淡々と作業を進めて行きました。レノンが残したデモテープは完成度が低かったため、多くの部分が新たに作り直されました。

斬新なミュージックビデオとグラミー賞受賞

ミュージックビデオも話題となりました。ジョー・ピトカ監督、ヴィンセント・ジョリエット制作によるこのビデオは、鳥の視点からビートルズの楽曲の歌詞をモチーフにしたシーンで構成されています。当時最新の映像技術が使用され、CG合成や女優の出演など、見どころ満載の作品となっています。ビデオの最後に映るウクレレ奏者は、ハリスンの出演依頼を監督が拒否したため、ハリスン自身ではありません。このビデオは、1997年にグラミー賞最優秀短編ミュージックビデオ賞を受賞しました。

2015年版リミックスと評価

2015年には、ジェフ・リンとスティーヴ・ジャイによるリミックスバージョンがリリースされました。このバージョンでは、レノンのボーカルのエフェクトが取り除かれ、マッカートニーのボーカルがより明確に聴こえるようになっています。ハリスンのボーカルも別テイクに差し替えられ、ドラムのエコーや音質、ステレオ定位、楽器のバランスなども調整されています。

「フリー・アズ・ア・バード」は、発売当時から様々な評価を受けてきました。肯定的な意見としては、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの演奏であること自体に価値があるという意見がありました。一方、否定的な意見としては、ビートルズのブランドを利用した宣伝文句にすぎない、地味で悲歌のような楽曲であるといった批判もありました。それでも、この楽曲は1997年の第39回グラミー賞で最優秀ポップ・パフォーマンス賞（デュオもしくはグループ）を受賞しており、その音楽的価値は広く認められています。

結語

「フリー・アズ・ア・バード」は、ビートルズの音楽史において特異な位置を占める楽曲です。レノンの未発表曲という特殊な経緯、困難なレコーディング、斬新なミュージックビデオ、そして賛否両論を呼んだ評価など、多くの要素が絡み合い、この曲を複雑で魅力的な作品にしていると言えるでしょう。この楽曲は、ビートルズの音楽的レガシーを再確認させ、同時に、音楽制作における困難と創造性を浮き彫りにする作品として、今後も語り継がれていくことでしょう。

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