フローリン金貨

フローリン金貨：中世ヨーロッパの経済を支えた金貨

フローリン金貨（florin）は、1252年から1523年までイタリアのフィレンツェで鋳造された金貨で、フィオリーノ金貨（fiorino d’oro）とも呼ばれます。この金貨は、その品質の高さとデザイン、金属含有量の安定性から、後世の西ヨーロッパ諸国の模範となりました。

歴史

フィレンツェ共和国が発行したフローリン金貨は、13世紀からヨーロッパで初めて大量に鋳造され、経済において重要な役割を果たしました。当時、フィレンツェの銀行はヨーロッパ各地に支店を持つ国際的な大企業であり、フローリン金貨は西ヨーロッパにおける大規模な取引で優位に取引できる金貨として急速に広まりました。それまで取引の基準であった銀の延べ棒に代わり、フローリン金貨が基準として使われるようになったのです。

14世紀には、ヨーロッパの150もの国や地域が、フローリン金貨を模倣した硬貨を鋳造しました。特に重要なのが、ハンガリーのフォリント硬貨です。当時、ハンガリー王国はヨーロッパで数少ない金の産地であったため、多くの金貨が鋳造されました。

各国への波及

フィレンツェ共和国のフローリン金貨には、片面にフルール・ド・リス（アヤメの花）の紋章が、もう片面には洗礼者ヨハネの立像が描かれていました。しかし、各国が模倣するにつれて、デザインは変化していきました。まず、フルール・ド・リスの周りの銘文や聖人の名前が変更され、次に紋章が地域の紋章や聖母マリアに置き換えられました。洗礼者ヨハネの肖像も、各国の守護聖人や王の肖像に変更されることがありました。

ハンガリーのフォリントでは、洗礼者ヨハネの像がハンガリーの守護聖人であるラースロー1世に置き換えられ、彼が持つ笏は戦用斧に変更されました。この変化は、各国の歴史的背景や宗教観を反映しています。そして、像は次第に堂々としたものになっていきました。

フィレンツェ共和国のフローリン金貨は、1252年に1リラの基準通貨として採用されましたが、金貨の含有量は不変であったにも関わらず、計数貨幣であるリラはインフレの影響を受けました。そのため、フローリン金貨は国際的な取引における通貨の基準としてますます重要になりました。

14世紀末には、フローリン金貨よりも品位を下げた軽量の硬貨がドイツ各地で鋳造され、ライングルデンとして広く使われるようになりました。15世紀には、ライングルデンは神聖ローマ帝国によって採用され、帝国グルデンとなりました。このように、フローリン金貨は、その影響力をヨーロッパ全土に広げていったのです。

フローリン金貨は、中世ヨーロッパの経済を支え、各国の通貨制度に大きな影響を与えた重要な金貨でした。その歴史とデザインの変化を理解することは、当時の経済や社会を理解する上で不可欠です。

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