ブラックバック亜科

アンテロープ亜科

アンテロープ亜科（Antilopinae）は、偶蹄目ウシ科に分類される動物の一群です。かつてはウシ科をウシ亜科とアンテロープ亜科の二つに大別する考え方もありましたが、その後の詳細な研究により、このアンテロープ亜科とされるグループは単一の共通祖先から派生したわけではない、いわゆる多系統であることが明らかになっています。そのため、その分類学的な位置づけは非常に複雑で、研究者間でも議論の余地があるグループです。

分布

この亜科に属する動物たちは、アフリカ大陸とユーラシア大陸の広範囲にわたって生息しています。生息地は多様で、乾燥したサバンナの草原から、森林地帯、さらには高山帯のような環境にまで適応しています。

形態

アンテロープ亜科の動物は、その形態、特に体の大きさに顕著な多様性が見られます。最も大きな種の一つであるダマガゼル（Nanger dama）は、体長が145センチメートルから172センチメートル、体重が40キログラムから85キログラムにも達します。一方、最も小さな種であるローヤルアンテロープ（Neotragus pygmaeus）は、体長がわずか45センチメートルから55センチメートル、体重も1.5キログラムから2.5キログラム程度しかありません。角の形態や、オスとメスの両方に角があるか、あるいはオスにのみ角があるかといった特徴も、族や属によって大きく異なります。

生態

アンテロープ亜科の動物たちは、多様な環境で様々な生態的ニッチを占めています。多くは縄張りを形成し、自身の臭腺を木や岩に擦りつけたり、特定の場所に尿を撒いたり、糞を積み上げたりすることで、縄張りの範囲を示し、他の個体に対して存在を主張します。危険を察知した際には、周囲の植生などに身を隠してやり過ごしたり、あるいは優れた走力を活かして天敵から逃れるといった防御行動をとります。

食性は基本的に植物食であり、生息環境に応じて草、木の葉、若い芽、根など、様々な種類の植物を摂取します。繁殖形態は胎生で、一度に生まれる子の数は通常一頭です。

分類

分類学的には複雑なアンテロープ亜科ですが、伝統的には大きく三つの族に分けられることがあります。ただし、これらの族間、そしてアンテロープ亜科全体が単系統ではないことに注意が必要です。

1. ブラックバック族（Antilopini）
この族はさらにいくつかの亜族に細分されます。
ブラックバック亜族（Antilopina）:
ガゼル属 (Gazella): エドミガゼル (G. cuvieri)、リムガゼル (G. leptoceros)、コウジョウセンガゼル (G. subgutturosa)、マウンテンガゼル (G. gazella)、ドルカスガゼル (G. dorcas) など多数。
ブラックバック属 (Antilope): ブラックバック (A. cervicapra)
ダマガゼル属 (Nanger): グラントガゼル (N. granti)、ダマガゼル (N. dama)
トムソンガゼル属 (Eudorcas): コリンガゼル (E. rufifrons)、トムソンガゼル (E. thomsonii)
スプリングボック属 (Antidorcas): スプリングボック (A. marsupialis)
ジェレヌク属 (Litocranius): ジェレヌク (L. walleri)
サイガ属 (Saiga): サイガ (S. tatarica)
オリビ亜族（Ourebina）:
オリビ属 (Ourebia): オリビ (O. ourebi)
ボック亜族（Raphicerina）:
ディクディク属 (Madoqua): ギュンターディクディク (M. guntheri)、キルクディクディク (M. kirkii)
ベイラ属 (Dorcatragus): ベイラ (D. megalotis)
ボック属 (Raphicerus): グリスボック (R. melanotis)、スタインボック (R. campestris)
チベットガゼル亜族（Procaprina）:
チベットガゼル属 (Procapra): モウコガゼル (P. gutturosa)、チベットガゼル (P. picticaudata)

2. クリップスプリンガー族
クリップスプリンガー属 (Oreotragus): クリップスプリンガー (O. oreotragus)
この族の系統的位置は不確実で、ブラックバック族の姉妹群や、あるいは別のウシ科の亜科に近縁である可能性が示唆されています。

3. ローヤルアンテロープ族
ローヤルアンテロープ属 (Neotragus): ベーツアンテロープ (N. batesi)、ローヤルアンテロープ (N. pygmaeus)
この族は系統的にブラックバック族などから離れており、しばしば独立したローヤルアンテロープ亜科（Neotraginae）として扱われることもあります。インパラ亜科などに近縁である可能性が指摘されています。

人間との関係

アンテロープ亜科に属する多くの種は、人間の活動によってその生息数が減少傾向にあります。主な脅威としては、開発による生息地の破壊や分断、そして過剰な狩猟が挙げられます。これらの要因は、彼らの生存を直接的に脅かしており、多くの種で保全上の懸念が生じています。

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