ブラックヒースFC

ブラックヒース・フットボールクラブ

ブラックヒース・フットボールクラブは、1858年に設立されたイングランドを代表するラグビーユニオンクラブです。現在はロンドン南東部のエルタムにあるウェル・ホールを拠点に活動しています。

概要と歴史的意義

このクラブは、1862年以降「オープン」な会員制を採用したクラブとしては世界で最も長い歴史を持ちます。「オープン」とは、特定の学校や組織との関連に関わらず、誰でも入会資格を持つ開かれたクラブであることを意味しています。また、アイルランドのダブリン大学、スコットランドのエディンバラ・アカデミカルに次ぎ、中断なく活動を続けているクラブとしても世界で3番目の古さを誇ります。

ブラックヒースは、ラグビーという競技の黎明期において極めて重要な役割を担いました。1871年3月27日にエディンバラで行われた、イングランド対スコットランドというラグビーユニオン史上初の国際試合の開催計画を支援し、クラブからも選手が参加しています。さらに、その10年後には、イングランドとウェールズの間で行われた最初の国際試合も主催しました。

フットボール協会（FA）とラグビーフットボール協会（RFU）という、現在のサッカーとラグビーそれぞれの統括団体設立に関わったクラブは極めて少なく、ブラックヒースFCはその数少ないクラブの一つであると主張できます。

設立と初期の活動

クラブは、ラグビー校で人気だった「キャリング」、つまりボールを持って走るプレーを許可する形式のフットボール競技を行うため、ブラックヒース・プロプライエタリ・スクールの卒業生たちによって「ブラックヒース・フットボールクラブ」として立ち上げられました。当時の卒業生チームと在校生チームの試合では、応援する側が「Club」あるいは「School」と声援を送っており、これが現在もサポーターが「Blackheath」ではなく「Club」と呼んで応援する伝統に繋がっています。

1863年には、単独で突破するかキック後の追走を行うという従来の戦術に加え、選手間でボールをパスする新たな戦術を生み出しています。

サッカーとの分化

1863年10月26日、ロンドンのフリーメーソンズ・タバーンに集まった人々は、当時の「フットボール」に含まれる様々な競技方式から、最良で最も受け入れやすい要素を集めた統一規則を策定するため、フットボール協会（FA）を設立しました。ブラックヒースもその設立メンバーであり、クラブのフランシス・モール・キャンベル氏が会計担当に選出されています。

しかし、規則策定が進む中で意見の対立が生じました。特に、第5回の会合で議論された「ハッキング」（相手の脛を蹴る行為）を規則から除外することについて、キャンベル氏はこれに強く反対しました。彼は、ハッキングはフットボールに不可欠な要素であり、それを排除すればゲームの勇気や気迫が失われると主張しました。

結局、ハッキング禁止が決定されたことを受け、12月8日の第6回会合でキャンベル氏は、FAが採用しようとしている規則は競技そのものを破壊するだろうと説明し、ブラックヒースをFAから脱退させる決断を下しました。他のラグビー型のゲームをプレーしていたクラブもこれに倣い、FAには加盟しませんでした。このブラックヒースの脱退という出来事が、現代のサッカー（アソシエーションフットボール）とラグビー（ラグビーフットボール）という二つの全く異なる競技が分かれて発展していく大きな分岐点となったのです。

ラグビーフットボール協会の設立

サッカーとの分化が進む中、ラグビー形式のゲームをプレーするクラブ間でも規則の不統一が課題となっていました。この状況を受け、1870年12月にリッチモンド・フットボールクラブの主事が、統一規則を策定するための会合を呼びかける書簡を新聞に発表しました。これに応じ、1871年1月26日に22のクラブ代表者がロンドンに集結し、その結果としてラグビーフットボール協会（RFU）が設立されました。

RFU設立に際しては、ラグビー校出身の3人の弁護士が最初の統一競技規則案を策定し、同年1月に承認されました。ブラックヒースは、RFU設立に関わった22クラブの中で、現在まで継続的に存続している希少な7クラブの一つです。

本拠地の変遷と近年の活動

ブラックヒースは設立当初、ブラックヒースにあるザ・ヒースで試合を行っていましたが、1883年にレクトリー・フィールドへ移転しました。その後、158年間ホームグラウンドとして使用したレクトリー・フィールドを離れ、入場料収入の最大化と将来的なクラブの発展を目指し、2016-17シーズンからは現在のウェル・ホールへ拠点を移しています。レクトリー・フィールドでの最後の試合は2016年4月30日に行われました。

国際的な舞台では、1871年の初の国際試合に加え、1881年のイングランド対ウェールズ初の対戦にも多くの選手を輩出しています。また、1905-06シーズンにニュージーランドラグビーユニオンが初めて北半球へ遠征した際の、伝説的な「オリジナル・オールブラックス」とも対戦しています。

獲得タイトルと著名選手

クラブは長い歴史の中で数々のタイトルを獲得しており、特にミドルセックス・セブンズ（2回）、ガラ・セブンズ（1回）、そして地元のケント杯では15回もの優勝を誇ります。また、グレンガース・セブンズでも主要イベントで優勝しています。リーグ戦では、2003-04シーズンにナショナルディビジョン3サウスで優勝を果たしています。

ブラックヒースには、ラグビー史に名を刻む多くの著名な選手が在籍しました。初代イングランド代表キャプテンのフレデリック・ストークスや、後にキャプテンを務めたレナード・ストークス、イングランド代表として活躍したチャールズ・ピルマン、そして第一次世界大戦で若くして命を落とした弟のロバート・ピルマンらが挙げられます。また、オールブラックスのワールドカップ優勝メンバーであるジョン・ギャラガーや、クラブ最多トライ記録を持つデイヴィッド・アレンなど、国内外で活躍した選手を輩出しています。なお、シャーロック・ホームズシリーズに登場する架空の人物、Dr. ワトスンもかつてブラックヒースFCでプレーしたという設定で知られています。

ブラックヒースFCは、その創設期からの歴史と、ラグビーという競技の形成期に果たした役割から、イングランドそして世界のラグビー界において特別な位置を占め続けるクラブです。

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