ブラックボックス (砂川文次の小説)

小説『ブラックボックス』の紹介

小説『ブラックボックス』は、砂川文次によって書かれた作品であり、第166回芥川賞の受賞作となっています。この物語は、元自衛隊員で自転車メッセンジャーとして働く主人公・サクマの浮き沈みと内面的な葛藤を描いています。初出は2021年8月号の『群像』で、砂川がこれまでに描いてきた戦場や自衛隊をテーマとした作品とは一線を画し、日常生活の中での「ルールと個人」の関係性に光を当てています。

作品の経緯とテーマ

砂川文次は、これまで多くの作品で自衛隊や戦争を題材にしてきましたが、本作『ブラックボックス』では、その設定を借りながらも自衛隊の舞台設定から離れています。彼は、自身が持つ「メッセンジャーの“アウトロー”なイメージ」と他作品のテーマに通じる部分に魅力を感じ、本作の執筆に至ったと語っています。特に、「ルールを無批判に受け入れる者」と「そのルールの背景を理解し、それを超えようとする者」という二つの立場の間に生まれる葛藤を描くことが狙いでした。

主人公・サクマのキャラクター

サクマというキャラクターは、これまで砂川が描いてきた作品の登場人物とは異なり、強い個性を持っています。彼は自転車メッセンジャーとしての生活を続ける一方で、自己の怒りを制御できずにいます。前半部分では、サクマが都内をかけ回る姿が描かれ、生活の中でのさまざまな出会いや経験がもたらす心理的な負担が浮き彫りになります。

物語の舞台と設定

物語はコロナ禍の東京を背景に進行し、サクマは「ちゃんとしなければならない」という思いに縛られながらも、それが具体的に何であるのかを見失っています。彼は自衛隊を辞めた後、不安定な職業に留まりながらも、生活の先行きに対する焦燥感と、恋人の妊娠という状況が、彼の内面にさらに重圧をかけています。過去の職歴には多くの仕事が含まれますが、どれも自分に合わず長続きせず、困難な人間関係に悩まされてきた彼の姿が見えます。

サクマの転機

サクマの人生は、恋人の円佳の妊娠をきっかけに大きく揺れ動きます。「ちゃんとしなければ」という意識が強まるあまり、彼の行動は次第に衝動的になり、最終的には税務署員に対して傷害事件を起こし、刑務所に収監される事態を迎えます。この転機は、彼の内面的な葛藤に新たな深みを加え、自由を失った空間の中で自分自身を探し続けるサクマの姿が描かれます。

結論

『ブラックボックス』は、砂川文次が描く新たな視点による文学作品であり、主人公のサクマが直面する内面的な葛藤や社会との関わりを描くことで、読者に多くの問いを投げかけます。彼の旅は、現代社会における個人の存在意義や、ルールの果たす役割について再考させられるきっかけを提供しています。

もう一度検索