ブリティッシュ・スチール

ブリティッシュ・スチール（British Steel）

ブリティッシュ・スチールは、イギリスにおける重要な製鉄会社の一つです。その歴史は第二次世界大戦後に国の管理下で始まったものですが、時代とともに経営母体や組織形態が大きく変化し、国営化と民営化、そして合併や買収が幾度となく繰り返される中で、この名称が様々な時期に使用されてきました。その波乱に満ちた変遷は、イギリスの近代産業史を象徴する出来事と言えるでしょう。

国営化から度重なる変革へ

ブリティッシュ・スチールの源流は、1951年に当時の労働党政権が国内の主要な製鉄企業を統合し、国有企業であるブリティッシュ・スチール・コーポレーション（British Steel Corporation）を設立したことに遡ります。しかし、その後の政治情勢の変化により、保守党政権下では再び事業の分割や民営化が進められ、労働党政権に戻ると再び統合されて国営化されるという、目まぐるしい政策の転換が繰り返されました。こうした紆余曲折を経て、1988年には再び企業が民営化され、改めてブリティッシュ・スチールplc（British Steel plc）として新たなスタートを切りました。

再編と国際化の波

20世紀の後半に入ると、世界の製鉄業界は国際競争の激化という大きな波に直面します。ブリティッシュ・スチールも例外ではなく、生き残りをかけた再編が進められました。1999年には、オランダの有力製鉄メーカーであるホーゴーバンと合併し、社名をコーラス・グループ（Corus Group）に変更。これにより、欧州における主要な製鉄企業連合が誕生しました。さらにその後、2007年にはインドのタタ製鉄（Tata Steel）がコーラス・グループを約120億ドルという巨額で買収し、同社はタタ製鉄ヨーロッパの一部となりました。

新生と破綻、そして新たな所有者へ

タタ製鉄の傘下に入ったイギリスの製鉄事業でしたが、経営の厳しさは依然として続きました。長年にわたる赤字経営から脱却するため、タタ製鉄は2016年にイギリス国内の主要事業を売却する決断を下します。この事業を買い取ったのは、投資会社であるグレイブル・キャピタル（Greybull Capital）でした。取得額は象徴的なわずか1ポンドとされており、この取引によって再び「ブリティッシュ・スチール」（British Steel Limited）の名を冠する会社が誕生することになります。この新生ブリティッシュ・スチールに含まれた主要な資産としては、イングランド北部のスカンソープにある一貫製鉄所やティーズサイドの製鋼所、ヨークの設計コンサルタント部門、さらにはフランス北東部に位置する製鋼所などが引き継がれました。

しかし、新たなスタートを切ったブリティッシュ・スチールも、鉄鋼市場の厳しい競争環境に抗うことはできませんでした。経営は再び悪化し、2019年5月22日、同社は経営破綻に至ります。この時点で、ブリティッシュ・スチールは年間約450万トンの鉄鋼生産能力を持ち、およそ5千人の従業員を雇用していました。破綻後、会社の再建先を探す動きが始まり、2019年8月にはトルコの複合企業であるオヤック財閥（Oyak Group）が買収交渉に乗り出しますが、同年10月までに交渉が難航し、合意には至りませんでした。最終的に、翌2020年に中国の大手鉄鋼メーカーである敬業集団（Jingye Group）がブリティッシュ・スチールを買収することが決定し、現在、同社の傘下で事業の立て直しが進められています。ブリティッシュ・スチールという名称は、イギリス製鉄業の栄枯盛衰と国際的な再編の歴史を映し出すものと言えるでしょう。

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