ブルートレイン (漫画)

『ブルートレイン』

高橋はるまさ氏による漫画作品『ブルートレイン』は、かつて日本の鉄道を象徴する存在であった寝台特急を舞台に、そこで働く人々と利用者たちの織りなす人間模様を描き出しています。

本作は、集英社の漫画雑誌に連載された後、電子書籍化を経て、手軽に入手できる100円ショップ「ダイソー」の文庫シリーズとしても再刊行されており、幅広い層に親しまれています。

物語の中心となるのは、上野駅と札幌駅を結ぶ架空の寝台特急「北斗七星」。この列車に連結された食堂車「グランシャリオ」こそが、主要な舞台となります。ここで調理師として働く主人公、高橋凛太郎の成長物語が、物語の主軸です。

物語のあらすじと主人公

主人公・高橋凛太郎は、実家が老舗の日本料理店であるにもかかわらず、あえて洋食の料理人を目指しています。調理師学校の卒業を控えた旅行で偶然乗り合わせた寝台特急「北斗七星」の食堂車で夕食をとった際、その魅力に引き込まれ、厨房で働くことを志すようになります。就職先が決まっていないにも関わらず、食堂車の料理長に直接雇い入れを懇願し、その情熱が認められて、食堂車を運営する会社に就職。念願の「北斗七星」の調理師となります。

凛太郎は、天性の明るさと人懐っこさを持つ一方で、困っている人を見過ごせないお節介な性格。それがゆえに、列車内で、あるいは沿線で出会う様々な人々の問題に首を突っ込み、時にはトラブルに巻き込まれながらも、持ち前の行動力と温かい心で人々と関わっていきます。これらの経験を通して、料理人としても人間としても成長していく姿が丁寧に描かれます。

列車を彩る人々

物語に深みを与えるのは、主人公を取り巻く個性豊かな人々です。

準主人公として、第2話以降ほぼ全ての回に登場するのが、食堂車のホールスタッフ・栗原瞳です。凛太郎とは同期入社で、作中では彼の頼れる相棒的存在。泣き虫な一面もありますが、いつも凛太郎と行動を共にし、彼の活躍を支えます。二人の間には、互いを「凛太郎君」「瞳さん」と呼び合う、爽やかな関係性が築かれています。

食堂車のベテラン料理長は、フランスの三つ星レストランや東京の一流ホテルで長年の経験を持つ、厳しくも温かい指導者。飛び込みで志願してきた凛太郎の可能性を見抜き、彼を一人前の調理師に育てるべく、時に厳しい言葉をかけながらも鍛え上げます。また、ホール主任は瞳の直属の上司で、彼女をよく叱る存在として描かれます。

多様な人間ドラマ

「北斗七星」の旅路では、様々な事情を抱えた乗客や、沿線に暮らす人々との出会いが描かれます。

凛太郎の学生時代の友人たちも登場します。調理師学校の同期である和也と直樹は、対照的な性格。割烹に進んだ和也は何かと凛太郎を気遣いますが、ホテルに就職した直樹はドライな態度を取りがちで、卒業旅行でのトラブルにも繋がります。また、高校時代の友人である恵利は、後に女優として活躍しているようです。

故郷・青森に暮らす両親との関係も描かれます。日本料理店を営む職人気質の父と母は、凛太郎の成長を見守りますが、ある出来事を巡って父と衝突することも。その際には、幼馴染の男性二人が仲介役となります。

列車に乗車する乗客たちのエピソードも多彩です。北海道の村が企画したお見合いツアーの参加者たちの騒動、将来を嘱望される高校球児との交流、洋食店の父娘との出会い、新婚旅行中の夫婦の喧嘩、食堂車で倒れた女子大生の見舞い、そして蟹田の駅に停車する列車を待つ少年との交流など、それぞれの背景にある人間ドラマが、食堂車での出来事を通して浮かび上がります。凛太郎はこれらの人々と深く関わり、持ち前の真っ直ぐさで彼らの問題に向き合い、物語に温かい光を当てていきます。

『ブルートレイン』は、鉄道という舞台設定を活かしつつ、食を通して人と人が繋がる温かい交流や、主人公の成長、そして様々な人々の人生模様を丁寧に描き出した、心温まる人情漫画と言えるでしょう。

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